第12話:第3章①vs大虎①


 数日後の放課後。

 部室では須磨と大虎が卓球台を挟んで向かい合っていた。というのも、大虎が須磨に練習試合を提案したからだ。1セット11点で2セット先取のゲーム。

「いいのか?俺に負けたらおま……先輩の立場がなくなるぞ」

 須磨は先輩後輩の関係を重んじることに成功した。

「先輩の立場なんてなくならねぇよ」

「何?」

「だって、元から俺にそんなものねぇもん」

 大虎はシシっと笑いながら言った。

 たしかに誰もこの試合に興味がなかった。普通は先輩が試合するとなったら、誰かが見に来るものである。勝手に各々の練習をしたりだべったりして、審判に名乗る人がいなかった。

「……たまたまでは?」

「さっき頼んだけどみんなに断られた」

「本当に立場ないのかよ」

 須磨は思わずつっこんだ。

「でも、みんな忙しそうだ。ばあちゃんの葬儀だとか、母ちゃんの浮気調査どとか、ペットの犬の結婚相手探しとか」

「おいおい大丈夫か?」

 須磨は先輩の立場が心配になった。

「大丈夫だろ。自分たちでカウントできるだろ」

「そりゃそうだけど」

「てか、誰が負けるだと?!」

「今更かよ!」

 大虎の遅い反応に須磨は速いツッコミ。

「でも負けねぇよ。それに、負けてもなくなる立場はねぇよ。でも負けねぇよ。それに……」

「終わらねぇよ。早くするぞ」


【練習試合:須磨VS大虎:2セット先取】


「サーブはお前からでいいぞ、後輩」

「ありがとうございます、先輩」

 須磨はボールを高く上げた。

「ほー、高いな」


 バチコーン!


 ボールが大虎の額に直撃した。

 ……

「……何しやがる!」

 大虎は頭を熱くした。

「しかたねぇだろ?当たっちまったもんは」

「お前、先輩に当てといてなんだその言い方」

「なんだと、お前」

「先輩と言えー!」

 ギャーギャー。

「――まってまって、2人とも」

 言い争う2人の間に宅井が割って入る。

「宅井、こいつが顔面にボールを当ててきたんだ」

「あーそれですか。須磨、ボールが入るまで時間がかかるんです」

 須磨がクールにいうことで、大虎の熱くなった頭がクールになった。

「そうなのか。めちゃくちゃなやつだな」

「はい、めちゃくちゃなやつなんです」

「大したやつじゃないな」

「はい、大したやつじゃないです」

「こらこら!」

 須磨は宅井と大虎との会話に割って入る。

「2人で何の話をしているんだ!」

「喧嘩を止めてあげているんでしょ」

「そういう風には見えなかったが。俺の悪口を言っているように見えたが」

 須磨はいじけていた。

「そんなことない。それよりも、僕が審判してあげるよ」

「そうか。それはありがたいが」

「じゃあ、再開してください。0―1ですよね」

 2人は準備した。

「次はきちんと打てよ、後輩」

「まかしとけ」

 須磨はボールを高く上げた。


 バチコーン


 大虎の額に。

「てめぇ何が、まかしとけ、だ!ダメじゃねぇか!」

「はっはー、今日は調子が悪いかも」

「調子が悪いにも程が悪いだろ!今日は片目しか見えないわけじゃないのに」

「両目見えるから逆に見えにくいかも」

「どういうことだ、おら?!」

「ほら、片目に慣れたから」

「意味不明な言い逃れするな!」

 またギャーギャーしているところに、宅井が介入。

「片目が見える見えないは関係ないです。この人、ただのノーコンです」

「なっ!誰がノーコンだ?」

 須磨は嫌な言葉だったのか、反応した。

「前の時だって、ボールが入るまですごく時間がかかっていたでしょ?」

「それはあれだ、エンジンが掛かるまで時間がかかるんだ。エンジンさえかかればいくらでも入るぜ」

 須磨はカッコつけて言い逃れした。

「ふーん。まぁ、どっちみちエンジンが掛かっていない今はノーコンでしょ?」

「なんだと!」

「0―2。さっさとレシーブの準備して」

 冷静に指摘する宅井に対して、須磨は込髪の血管を浮き上がらせていた。

「おーいおいおいおい。宅井とイチャイチャするのはいいけど、今のお前の相手は俺だぜ、こーはい」

「イチャイチャしてねぇよ」

 須磨はイライラを押し殺した。

「じゃあ、サーブ行くぜ。入れろよ」

 大虎のサーブ。

 須磨は勢いよく振った。

「やば!また額に飛んでくる」

 大虎は額を警戒。


 パン!


 ボールは大虎のはるか上方の天井に当たった。

 0―3。

「やっぱり入らねぇじゃねぇか!」

「……おかしいな」

 須磨は首をひねった。

「あぁ?何がおかしい?」

「いや、もう一発どうぞ」

 大虎はサーブ、それを打ち返す須磨。

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