第8話:第2章⑥vs宅井①
「オーケーオケー。たーのしみだなー!」
肩を回す須磨。
「そんな大げさな」
「お前にとっては大したことなくても、俺にとっては大したことあるの」
台を挟んで向かい合う2人。一方はやる気まんまん、もう一方はやる気なし。
「サーブはどうする?」
「どっちでもいいよ」
「そんなこと言わずに、ジャンケンで……」
「お先にどうぞ」
宅井は大人が子供にするように興味なさげに譲った。
「では、行くぞ」
須磨は高くボールを上げた。そして打った。先ほどのように早いサーブ。
パン!
ボールは須磨の後ろに転がっていた。
「……うそ?」
「だから言ったでしょ。僕の方が強いって」
冷や汗混じりにボールの方向を振り返る須磨を宅井は見つめていた。
「くー、やっぱりスゲー!」
須磨は天を見上げて嬉しそうに吠えた。
「ガッカリしないんだ」
「そりゃそうだろ。俺が憧れた相手が弱い方がガッカリするさ」
そう言いながら次のサーブの準備をする須磨。
「ふーん。0―1だよ」
サーブを待ち受けながら聞き流す宅井。
須磨は再びサーブを打ったが。
パン!
すぐにボールは須磨の後ろに返っていった。
「スッゲーな。返せねぇよ」
そう吠える犬のように興奮する須磨に対して、熟練のドッグトレーナーのように冷静な宅井は次のサーブの準備。
「0―2だね。いくよ」
サーブを打つ宅井。
「大したサーブじゃねぇな」
返す須磨。先ほどの試合同様の早い返球。
パン!
須磨が気づいたら、再びボールは須磨の後ろを転がっていた。
「0―3だよ」
宅井は冷静にカウントした。そして、次のサーブの準備でボールを持った。
「お前、サーブは手を抜いたのか?」
「まさか、本気だよ」
宅井はボールを上げた。そして、サーブ。
「こんなへなちょこサーブ」
須磨は返した。
バチコーン!
須磨の額に強打炸裂。ボールは大きく跳ね、宅井の前に落ちてきた。
「0―4。次は君のサーブだよ」
そう言うと宅井は目の前にはねてきたボールをラケットで山なりに返球した。
「お前、やっぱりサーブは適当じゃねーか!」
「適当じゃないよ」
「じゃあ、なぜレシーブだけは早いんだ?その速さでサーブも打てよ。なめてんのか?」
須磨は本気の勝負を嘆願していた。
「いや、君、負けているじゃん」
「そうだけど、それはその、別として、本気で戦って欲しいんだ」
立場上強くは言えない様子。
「心配しなくても本気だよ」
「何?」
ボールがテーブルから床に落ちた。
「君は勘違いしているけど、強いボールを打つことだけが卓球じゃないんだよ」
「なんだと?」
須磨は納得していない様子。
「もちろん速いボールを打てるに越したことはない。でも、それだけじゃ勝てないよ、君みたいに」
「俺がお前に勝てないだと?」
須磨は腰に手を当てながら疑問を持った。
「そうだ。それがわからないうちは僕には勝てない」
「おいおい、そんなのわからねぇだろ?こっから逆転するかもしれないじゃないか」
「それが無理なのは君が一番わかっているだろ?」
「なんだと?!」
須磨は声を荒らげた。
「そんなに食って掛かるということは、図星だろ?」
「くっ」
須磨は言葉を返せなかった。
「先ほどの試合は、君はまだ慣れていなかっただけさ。ラケットにボールに台に。だから、ミスショットを連続していた。しかし、続けているうちに慣れてきて本来の力が出るようになったから勝てた。でも、今は本来の力が出ているのに勝てない。そうだろ?」
「……たしかにそうだ。お前のほうが強いかもしれない。しかし、だからといって舐めプは腹が立つんだよ」
「だから、それが分かっていないんだよ」
「?――どういうことだ?」
須磨はまだ納得していない。
「自分の頭で考えなよ。ほら、サーブ打って」
須磨はいつもどおり強くサーブを打った。しかし、簡単に返された。
「くそ」
「0―5」
宅井は静かに冷静にコールした。
「どうして返せねぇんだ」
「そんなの簡単だよ。サーブに力を入れすぎだよ」
「なに?」
須磨は寝耳に水だった。
「君ね、サーブに力を入れすぎて、その後が無防備なんだよ。バランスも崩して、次のボールを打つ準備が出来ていない」
「そんなの、今までなかったぞ。今まではきちんと打ててた」
宅井の指摘に対してラリーのように須磨は反論した。
「それはどうかな。さっきの試合を見ていたけど、ボールが返ってこなかっただけだろ?」
「いや、かえってきたボールもきちんと打った」
「それはきちんとした返球じゃなかっただろ?返すのがやっとの打損ないだろ?」
「そ、それは」
ギクリと図星だった。
「それじゃあ、ダメだよ」
「だったら、返球させなかったらいいだけだぜ」
須磨は強くサーブを打つ。
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