第9話:第2章⑦vs宅井②

 パン!


 ボールは須磨の後ろで跳ねる。

「だからダメだと言ったじゃないか。人の言うことは聞かないと」

「へっ、俺のやり方はオレが決める。人の言うことなんか聞いても面白くない」

 須磨はマイポリシーといわんがばかりに自分に向けて親指を立てた。

「それなら、何も言わないけど、0―6だ。次は僕のサーブだね」

 宅井はボールを持った。そして、緩いサーブ。それを須磨は強く打ち返したら、早い返球が須磨の横を吹く。

「0―7」

「くそ」

「君、どうせ聞かないと思うけど一応言うね」

「なんだよ?」

 須磨は一応は聞く姿勢を見せていた。

「僕が遅いサーブを打っているのはいろいろな理由があるけど、1つとして緩急をつける目的があるんだよ」

「緩急?」

 須磨はあご下を伸ばし嫌そうな顔をした。

「そうだ。速いボールと遅いボールを使うことだ」

「野球で聞いたことはあるが」

「野球でもそうだしいろいろなスポーツでも使われているテクニックさ。速いボールをよく見せるために遅いボールを使うとかね」

「小賢しい」

 須磨は一瞬しようとしたが。

「でも、それで君は手が出ないではないか。僕の遅いサーブに目が慣れてしまって、そのあとの速いボールに手も足も出ない」

「……」

「逆に君のボールはどれも同じだ。早いには早いが、慣れてしまえばどうということはない。簡単に打ち返せる」

「そうかいそうかい」

 須磨はゆっくりと言葉を発した。

「……?少しは聞く気になったのか?」

「いーや。逆さ。緩急をつけずに速いボールだけで勝ちたくなったね」

「ふーん」

 興味なさげに宅井はサーブを打った。

「うりゃ!」

 と、須磨は今までどおり来た速いボールを今までどおり返した。

が、今までと違うことが起きた。

「うりゃー!」

 須磨が初めて返球した。

「!」

 宅井は初めて返って来たボールに反応が遅れた。


 パン!


 しかし、コンマ数秒後にはボールは須磨の後ろに転がっていた。

「ダメかー!」

「0―8。返してきたからびっくりしたよ」

「……それは馬鹿にしているのか?」

 須磨は宅井の言葉に引っかかり声を出そうとしたが少し引っかかった。

「そんなつもりはない。本当にびっくりしたんだ。僕のボールに慣れてきたのか?」

「それもあるが、力を入れすぎないようにしたんだ。バランスを崩さずに、次のボールに対応できるようにした」

 その言葉を聞き、宅井は首をかしげた。

「それって、僕が言ったことだよね」

「そうだよ。それがどうした」

「いや、僕の言うことは聞かないと言っていなかったか?」

「そんなこと言ってねぇぜ。速い球だけで勝つと言っただけだ。それに反する意見以外は参考にするぜ」

 須磨の堂々とした態度に、宅井は頷いた。

「どうやら、思ったより柔軟そうだね」

「柔軟かどうかは知らねぇよ。俺は強くなりたいだけだよ」

 威厳満々にカッコよく言った。

「……それはいいけど、あと3点取られたら負けだよ」

「オーマイゴッ。このままじゃ負ける!」

 須磨は頭を抱えて焦っていた。それはそれは威厳のない姿だった。

 ――

 須磨のサーブの番。須磨はボールを高く上げた。今までどおり。

「おら」

「……」

「おら」

 須磨は宅井からの返球を返した。

「返せるようになったんだね」


 パン!


 ボールは須磨の後ろにはねていた。

「それでも、僕には勝てないけどね」

「くっそー。0―9か!」

 悔しがる須磨。

「君、すごいね」

「あぁ?嫌味かよ?」

「いや、そうじゃない。普通なら、ここまで圧倒されたらやる気をなくす憧れるかするはずだよ。どうして悔しがることができるの」

 宅井は純粋に疑問を持った顔だった。

「あぁ?知らねぇよ。悔しいものは悔しいんだよ」

「……そうか」

 宅井は納得したような納得していないような様子だ。

「っていうか、やっぱり嫌味じゃねぇか。誰が圧倒されているって。このばーか」

「それは事実だろ。それから、小学生みたいな悪口だな」

「へぇ。この前まで小学生だったからしかたねぇだろ」

「ああいえばこういう。そんなことより、早くサーブ打ちなよ」

「言われなくても、打ってやるよ」

 須磨はボールを高く上げて、打った。


 パン!

「……道理で見にくいと思った!」

「忘れていたの?!」

 迫真の顔の須磨に宅井は呆れていた。

「いやはや。集中したら忘れてしまう」

「集中って」

 互いに笑っている。

「じゃあ、次はお前のサーブだぜ」

「分かっている。これで終わりだ」

 宅井はボールを上げた。


「何をしている!」

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