第5話:第2章③練習試合②
パン!
いい音の方向を男子は向きなおした。
驚いた表情の佐藤としたり顔の須磨。ボールは佐藤の後ろを転がっていた。
「今のは入ったぜ。8―1」
須磨の鋭い瞳に自分が映っているのを佐藤は恐怖した。しかし、すぐに恐怖を振りほどいた。いや、振りほどこうとした。
一方で、見ていた男子は開いた口がふさがらなかった。
「な、何が起きたんだ?」
その独り言に誰も答えずに、次のサーブを佐藤は打った。
パン!
気づいたらボールが佐藤の後ろにあったという顔の佐藤と男子。
「8―2だぜ」
と言う須磨。
困惑している佐藤。
同様に困惑している男子。
それらを黙って見つめる学生。
4人1部屋。
「次は俺のサーブだ」
そう言うと、須磨はボールを卓球台に軽くドリブルさせていた。
「へっ。今度はうまくいかないぜ」
その佐藤の言葉を聞くか聞かずか、須磨は高く上げた後に重力下で落ちてきたボールを、体をひねらし遠心力と瞬発力と何かの力でラケットに当てた。
パン!
佐藤は身動き一つ出来なかった。
「8―3」
そう冷静に言いながら、須磨は次のボールを手に持った。
「おいおい、まじかよ。なんだこの速さは?」
佐藤は冷や汗を流した。
それを聞かずに、須磨は再びボールを高く上げた。
――
「8―8。追いついたぜ」
須磨はニヤニヤとしながら言い、佐藤は顔が引きつっていた。
「このやろう。黙っておけば」
佐藤は増殖した冷や汗を歯ぎしりの歯に滴りながらボールを凹みかけるくらい強く握っていた。
「早くサーブ打ってくれよ」
須磨の言葉に佐藤は頭をプッツンさせた。
「なめんなよ」
サーブを打つ佐藤。
「ぬるいサーブだな」
須磨は臨戦態勢。
「そりゃそうだ」
そういう佐藤の声が聞こえるとともに、鈍い音が須磨の顔面に響く。佐藤の投げたラケットが須磨の左眉毛付近に直撃。血が出ていた。
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