第33話 喪失

私は肌寒い空気の中

手を伸ばし

まだかたい花芽に触れる


これからもあなたに見せたかった花々

移り行く季節

時がくれば花は咲くだろう

もうそばにあなたはいなくとも──



様々な記憶をあなたをよせあつめ 

もう触れることも見ることの出来ない

あなたを想う


見上げた視界がゆがむ

伸ばした手を下ろして

瞳にこぼれそうな涙

そっと顔をおおって


信じられない──


つうと

心のかけらが

頬を伝い落ちる

あなたを想って

伝い落ちる


春の生の息吹はあなたをおいたまま


指の隙間からにじんだ早春の景色の中

あなたの姿が幻となり

浮かんでは搔き消える

堪えきれない嗚咽が小さく響く


あなたのいない深い穴のような

心のうろを抱いて


私のいつまでかまだ続く生は

これからも続く季節を見ていくのか

あなたのいないこの世界で──


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