第31話 咲く微笑み

鮮やかに咲き誇る薄紅の染井吉野の花々

朝の爽やかな風がそっと花びらを揺らす

さらさらと微かに音を立てながら

花は風に身を任す


ぼくは足を止めた

そこには背伸びして花を見つめる人影


それはあなただった


艶やかな長い黒髪が風に靡き

綺麗に澄んだ黒の瞳が

目の前でゆるやかに細められる


その姿に魅了されるように

立ち止まり動けない


そっと花咲くように花の中で

ゆっくりとあなたの微笑みが咲く


声をかける勇気もなく

ぼくは視線をそらす


花達の視線を感じながら

あなたの視線は感じない


もし声をかけることが出来たなら──

遠ざかりながらも後ろ髪ひかれながらも

ぼくはただ胸の中で見つめたばかりの

あなたを反芻していた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る