第3話

 俺はガチャで引いた嫁を、自室にあげてしまった。


 ……だってしょうがないじゃん。

 俺の人生で、こんな美少女が部屋に来るなんて、初めてのことなんだから。


 それに、この千載一遇チャンスを逃したら、この先は一生ないだろう。

 たとえ彼女が美人局つつもたせで、俺に莫大な借金を背負わせて、去っていったとしても……。


 彼女が座っていた場所のぬくもりだけでも、残り香だけでも、これからの人生を生きていけそうな気がする。


 っていうか、さっきからメチャクチャいい匂いしてね!?

 ゴミ臭いこの部屋に消臭剤を置いたって、絶対にこんないい匂いにはならない!


 俺は改めて、俺の目の前で正座をしている、花のような少女を観察した。


 しかし、それにしても信じられないくらいの美少女だな……。

 しかも、胸おっきくてスカート短いし……。


 彼女はまだちょっと緊張しているのか、膝に置いた手をきゅっと握りしめている。

 そのせいで、胸がむにゅっと腕に押し出され、強調されていることにも気付いていない。


 しかもミニスカートで正座しているものだから、太ももが丸見え。

 下手すると、また……。


 そこで俺は自分を律した。


 ……い、いかんいかん!

 俺は自分よりもずっと歳下の女の子に、なにを考えてるんだ!


 昨今、女子高生を家に上げただけでもSNSが炎上するご時世だぞ!

 いや、それ以前に犯罪だし! っていうか、彼女はそれを利用した美人局なんだ!


 俺は彼女から視線を引き剥がすと、ごまかすようにスマホを見る。

 時間を確認したら、朝の8時だった。


 そろそろ、朝飯を食わないと……。


 なんて思っていると、



 ……ピロリン!



 立ち上げっぱなしだった『人生ガチャ』の画面には、新しいガチャが増えていた。

 『嫁ガチャ』はグレーアウトして、もう押せなくなっていたけど、かわりに……。



『飯ガチャ』



 というのがあった。


 俺は押してみようかどうか、一瞬ためらう。

 でももう、ガチャで引いた女の子を家に上げてしまったんだ、いまさら気にすることもないだろう。


 それに、ガチャというのは俺にとっては据え膳。

 目の前にして手を出さないなんて、できるわけがない。


 ままよ、と『飯ガチャ』のボタンを押すと、スロットのようなガチャ演出が始まった。

 適当に画面をタッチして止めてみると、



 『中華』『麺類』『インスタント』



 を表すアイコンと文字が並んだ。

 スロットの排出口には、『ノーマル:カップラーメン』とある。


 直後、部屋の玄関扉の向こうから、



 ……ドサッ!



 と何かが置かれるような音がした。

 俺が立ち上がるより早く、



「あっ、旦那様。わたくしが見てまいります」



 ユズリハが軽やかに立ち上がり、ぴらりとスカートを翻して玄関へと向かう。

 戻ってきた彼女が抱えていたのは、小さな段ボール箱だった。


 中を開けてみると、そこには……。

 2個の、カップラーメンが……!


 まさか本当に、飯まで現実リアルで出てくるとは……!

 いや、嫁が出てくることに比べたらたいしたことじゃないけど、ビックリだ……!


 いっしょになって箱の中を覗き込んでいたユズリハが、ふと言った。



「あの、旦那様……。こちらは、何なのでしょうか……?」



「何なのって、カップラーメンだろ」



 するとユズリハは、まるで蕾が開いたみたいにパアッと顔を明るくすると、っk



「こ、こちらが、かっぷらぁめんさん……!? は、はい! 存じております! お噂は、かねがね……!」



 まるで憧れの大スターに出会ったみたいな、感激に満ちたコメントを口にしていた。

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