第78話 海面下の旭日
船内の作戦司令室には、ルーリナの招集を受け、ヴィズ、キーラ、青烏、狗井、ローレンシアの面々が集まっていた。
ルーリナが全員の注目を集め、咳払い。
「さて、諸君——」
「ルー。時計を見て、呼ばれた時間に12秒も早いよ!——痛ッ」
ルーリナの話しをローレンシアが遮り、ヴィズがそんな彼女を肘で小突く。
ルーリナも挑発的なハーフエルフを12秒間ほど睨んだ。
「みんな、招集に時間通り応じてくれてありがとう」
ほぼ個人に向けた嫌味を述べてから、再び咳払いで、話に緩急をつける。
「さて、諸君。次の作戦は、端的に言えば企業テロだ。つまり、今までより明確に民間人を巻き込む事も加味した作戦行動となる……」
静観している面々を眺めながた。
「耐えれる自信がないものは船から降りてくれて構わない」
最初に口を開いたのはローレンシア。天井を見上げながら呟いた。
「あー、罪の無い無知な人々を巻き込んで良いなんて……最高だ。がんばるぞ、私」
ルーリナは、ローレンシアを無視しながら1人のメンバーを注視する。むしろ、この前置き自体がほとんどその一個人に向けられたものなのだ。
「キーラちゃんは?」
「わ、わ、私も、その、ほら、大丈夫ですよ!」
若い吸血鬼の歯切れの悪いながらもはっきりとした意思表明に頷く。その後は形式的にヴィズにも尋ねた。
「ヴィズ。あなたは?」
「問題ない。今更聞くような事でもないだろう」
ヴィズの返事の後、同じ質問を狗井にも尋ね、彼女も首肯で答えた。
「よろしい」
そう言うと、青烏に目線を向け、彼女には承諾とは別の事を促した。
「じゃあ、アオ。説明してあげて」
ルーリナからのバトンを受け取り、青烏が次の計画の説明を始める。
「次の作戦は、日本の民間企業ジンドウからムラマサというソフトウェアの奪取を目標として行う」
ムラマサという単語に狗井が反応した。
「ムラマサ………
狗井の反応を見たヴィズは、あえてキーラに耳打ちをする。
「キーラ。なんなんだそれ?」
「なんて言うのかな……日本刀のメーカー名的なものです。その“ムラマサ”が作った刀を持つと温厚な人でも人を斬りたくなる魔力があるとか……」
キーラの話をそばで聞いていたローレンシアが目を輝かせる。
「ほぉ……人を操作する呪具ね? 欲しいな。調べたい」
キーラも機嫌良く語った。
「いえ、実際はムラマサさんが良い刀を安くいっぱい作ったので“事件”を起こす人も多かった的な説があるそうです。諸説あり、ですけどね」
状況を見かねたルーリナが雑談に水を差す。
「
そうして、再び青烏が説明を続けた。
「えーっと、この“ムラマサ”は、ワームクラスタータイプのコンピュータウィルスです。
効果は、非常に感染力が強く、高速で伝播する——」
キーラが口を挟まずにはいられなかった。
「それは普通のワームクラスターじゃないですか。ワームクラスターなら駆虫剤で対応できるから脅威度は低いかと思います」
したり顔の質問に、青烏は不敵な笑みを浮かべた。
「ムラマサの特徴が、プログラムの完全寸断とランダム構成機能を持ち、
「ひぇぇ。つまり、一瞬で崩壊して、構成の修繕も外部からの調査も出来ない……まるで、電波にのる放射能かVXガスじゃないですか」
「そう。分かりやすく言うなら、いつでも
青烏の説明が終わると再びルーリナが音頭を取った。
「この任務では、作戦行動を
ローレンシアは手を上げて、人目につくようにぴょんぴょんと跳ねた。
「ルー。あなたは何をするの? 偉そうに座っているだけ?」
露骨に舌打ちしてから答えた。
「そうよ。1番偉いからね。つまり、あなたの上司より偉いからね」
「え〜。そんなの——」
ルーリナは言葉を遮って命令を下した。
「キーラちゃん。あなたにはロシアの兵器開発会社スティノヴァ社の技術エンジニア兼アドバイザーとしてジンドウに取引を持ちかけてもらう。狗井は外装をジンドウ製のアンドロイドに戻して、キーラのボディーガード兼秘書として同行してね」
キーラと狗井は淀みなく承諾した。
「ヴィズとローレンシア。あなたたちのチームは、キーラちゃんたちのバックアップ。
必要な情報はアオにサポートさせるけど、アプローチから逃走まで全て自分で計画してもらいたい」
ローレンシアはここでは何も言わなかったが、彼女めは期待に満ちて物言いたげなヴィズに注がれている。
ヴィズは、顎に手を当てて考え込み、命令に追加条件を求めた。
「それなら、事前調査に時間をかけたい。東洋の島国ということは、文化、宗教観、民族的に、全く想像できない行動規範を持っている連中を相手取るということになるからな」
この申し出は想定されていた。
「えぇ。分かってる。だから、今回の作戦ではパスポートを用意して、合法的な身分であの国に“旅行”してもらう。ビザは観光ビザを取得してね。それなら3ヶ月の活動期間が確保できる」
ヴィズは小さく頷く。
「挑んでみよう。さて……」
そのまま両手を体の前で合わせ、神妙な顔で呟いた。
「そろそろ
周りの顔に疑問符が浮かんでいく様子を見渡しながらローレンシアに命令を下す。
「ローレンシア。私のチーム内から日本語を話せる奴をリストアップしてくれ」
ヴィズからローレンシアへの皮肉を込めた要請に返答したのは、渋い顔をしたルーリナだった。
「大丈夫よヴィズ。すごく良い翻訳機を使えるようにするから……」
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