エネーブルクロニクル

偽作者(雷帝と聖王女に祝福を)

プロローグ

数え切れない星々が煌めき、黒く染まった夜空を照らす。


雲一つすら見えない澄んだ夜空の下、もしかしたら誰かが何処かで宇宙人とでも一緒に展望台で流れ星や星座を探して天体観測をしているんじゃないか、そう心底で無意識に考えてしまうくらい稀に見れる、時折現れる見慣れた風景。


そんな星空を背景に、聴こえてくる誰かの歌声。


《WARNING! WARNING! THIS IS NOTHING A TEST!》


地上に見えるのは燃え盛る炎とある程度原型を留めているモノからもう跡形も残ってもいないモノまで様々なビルやタワーといった倒壊した建築物、響き渡るのは銃声とサイレン、そして何者かの悲鳴――


――透き通った黒く静寂な美しい夜空とは真反対の荒廃した世界のような光景が広がっている。


荒廃した街中で何かから逃げ惑う人々。

それはまるでB級映画のような



その光景の中に異色とも言える二つの人影。


お互いに相対した位置に居る相手に向かってセーフティを外した拳銃ベレッタM92FSの銃口を向ける二人。


声からして男性なのだろうか、銃口を相手に向けたまま叫ぶ謎の人物。

迷彩が施されたヘルメットに同じ色の迷彩服とグローブ、ゴーグルとマスクを被った恐らく軍人と思われしき素顔の見えない謎の人物は銃口を向けた相手に問う。


同じくマスクを被った相手はただ沈黙を貫き、何一つ口に出さない。


『shot early now it!《早く撃て!》』という言葉が無線と繋がっているヘッドホンを通して何度も何度も脳内に響き渡る。


――セーフティロックは外してある、いつでも撃てる状態だ…それを自分の頭では理解している…しかし目の前の敵を撃たない、否、撃てずにいる。


”みんな”と過ごした記憶が次々と現れては過ぎ去っていく…その記憶に写る人物達は皆が笑顔で自分と仲の良い人物ばかりであった。


その面影が目の前の敵に重なるようにフラッシュバックし、判断力を鈍らせ、そこにまるで追い打ちを掛けるかのように『命令』という単語が衝突し合い、ジレンマを生み出し、まるで胸が直に締め付けられる感覚に襲われる。


一方の軍人が戸惑いとショックで銃を撃つ事に戸惑う中、意外にも今まで無言を貫き通していた相手は構えていた拳銃を下ろし、口を動かす。


燃え盛る炎とサイレンの音に掻き消されて全く聞き取れないが、何かを言っているようであった。


拳銃を構えたマスクの軍人は何かを聞き取れたのか、先程とは違って銃口が目標から大きくズレており、手首が震えている事から動揺したような素振りを見せる。


そのまま少しの沈黙が走るが、次の瞬間マスクの軍人の両手に握られた拳銃の銃口から閃光マズルフラッシュが発生する。


そのまま同じ光景が繰り返される――我を忘れたかのように叫びながらセミオート状態のままである事をも忘れたのか構えている拳銃のトリガーを何度も引き、撃ち続ける。


弾倉内の残弾が尽きても気にせずに何度も何度も引き金を引いては相手に撃ち続けたと思われる銃声音が辺りに響き渡った。




吹雪によって掻き消されていく。


その先がどうなったのかはそこに居たであろう人物以外、誰も知る余地もない…後に各国の情報部の間で「■■■■■■」として知られるようになるが、数十年経っても誰一人と解決出来ず未解決事件として処理されている。


死傷者はおよそ1000人


負傷者、生存者は10人


行方不明者はおよそ10万人


誰かの放った一発の銃弾によって引き起こされたテロ事件は世界中で未だにその大きな傷跡を残している。





誰かが知り、そして誰も知らないある人物の物語の始まり《プロローグ》…


――そう、これはある日の何処かで起きた「始まりのプロローグ」である。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

エネーブルクロニクル 偽作者(雷帝と聖王女に祝福を) @osilisu3124

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ