第12話 ラーシン将軍の本音

「それで、あいつらは何やってるんだ?」

 ラー新将軍は、鼻をつまみながらヒッチ隊長に聞いた。

 周囲には異臭が立ち込めている。とても我慢出来る匂いではない。

 臭くてたまらん。


「なにやら、火薬という武器を作ると言っています」

「糞を使ってか?」

「何度もやめさせようとしたのですが、これで正しいのだと言い張ってやめません」

「まぁ、役に立つとは思えんな」

「将軍・・私には今回の作戦の意義が理解できません」

「まぁ、そう言うな。お前の言いたいことは分かっている。わしも、あやつらが戦力になるとは思ってはおらん」

「それではなぜ・・・」

「戦力にはならなくとも、利用できなくはないのだ」

 

 ラー新将軍は異世界の勇者に実は懐疑的であった。

 アイゼン魔術長によって呼び出された若者たち。

 男二人に女二人。

 全員なよなよとして頼りない。とても戦力になるとは思えない。おそらくは、戦ったこともないのであろう。


 そもそも、カルマン帝国には異世界人について悪い伝説しかない。


 カルマン帝国に伝わる伝説。それは異世界からやって来た悪魔が世界を混乱に陥れた。それを5人の英雄が打倒したというもの。

 その英雄たちが、カルマン帝国の祖となったとされている。

 つまり、異世界人はカルマン帝国においては敵。

 そもそも、シャイン王国にやって来た異世界人(勇者だと!?)によってカルマン帝国は苦悩させられた。あいつさえいなければ、今頃は大陸全土を掌握できていたのだ。


 そのため、今回の異世界召喚は国内から猛反対が上がっていた。


 だが、アイゼン魔術長が強硬に実行を主張した。

 滅亡寸前のシャイン王国に反撃されたのは異世界から来た、いまいましい勇者のせい。だから、こちらも対抗して異世界から召喚を行えばよい・・と。

 毒には毒を持って制すればよいのだと主張したのだ。


 だが、ラーシン将軍は知っている。


 アイゼン魔術長は、悔しいだけなのだ。

 シャイン王国の聖女は異世界からの召喚魔法を成功させた。

 自分が成功させたことのない魔術を実行。先を越された。

 その劣等感から、召喚の実行を主張していることを。

 自分こそが、世界最強の魔術師と考えている。だからこそ負けたくないだけなのだ。


 アイゼン魔術長の強硬な主張により、召喚を行うことがようやく許可された。


 ただし、条件としては帝都から遠く離れた国境近くの僻地の基地で実施すること。

 そして、危険があると判断すればラーシン将軍が処理すること。


 それはつまり、異世界から召喚されたものがあればラーシン将軍が処分することを意味する。


 だが、今のところ危険は感じられない。

 それどころか、あいつらが戦力になるとも思えない。


 まぁいい。

 いざとなれば、囮か人柱にでも使おう。


「それで、その武器とやらはいつできるんだ?」

「なにやら明後日にお披露目できるめどが立ったと言っています」

「そうか・・・期待しないでおこう」

「は・・それで、失敗したらいかがいたしましょう?」


「3日後、前線において荷車に縛り付けてシャイン王国に突っ込ませる。

 シャイン王国によって殺されても、シャイン王国に逃亡しても攻め込む大義名分ができるというものだ」

「なるほど・・・深慮遠謀、感心させられました」


 ま、アイゼンのやつが寝込んでいる今のうちがチャンスだしな・・・。

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