カリモノ競争
「さぁ今年もやってまいりました九頭高校大体育祭メインイベント、カリモノ競争のお時間です!」
カリモノ競争司会を任された実行委員の少年が熱を込めてマイクに吼えた。
「例年通り、赤組、青組、トランスペアレントレッドオキサイド組から各組二人ずつを選定、生贄となる
聖田中は観客席に深々と一礼し、宣言した。
「聖田中です。僕は同じクラスの日向くんの足を借りてきました」
聖田中はトランスペアレントレッドオキサイドの短パンを太ももの付け根までまくった。接合点に無数の縫い跡があった。
「日向くんの足に賭けて、必ず勝利を手にします!」
歓声が湧き、日向くんが失くした足を撫でるような仕草をしながら泣いていた。
実行委員が吼えた。
「第二のコース! 赤組から留学生のラインハルト六井さん!」
六井さんが黒人特有のバネを見せつけ、一礼した。
「ワタシ、この一年でツチカタ、嶺井くん、西道くん、松木くん、長峰くん、原木さん、バグ井くんの童貞パワー借りマス。ミンナ、いやらしい目でワタシ見てきました。ゼッタイ、トップでテープ切ってみせマス」
静かな決意に、名を呼ばれた生徒たちが白い目に縮こまった。
「第三のコース! 青組! 面堂くん!」
名を呼ばれた少年が恭しく一礼した。
「僕は今日、面堂くんの人生を借りて走ります。もし誰よりも早く駆け抜けることができたら、その瞬間から、僕が面堂くんです」
クラスの誰もが、観客席にぽっかり開いた空席に涙した。
「第四のコース! 赤組から葛西さん」
眼鏡の少女がおどおどと頭を下げた。
「え、えと、私、私は! 第一コースの聖田中くんの結果を借ります! 聖田中くんが一位になら私が一位です!」
赤組の相場師が拳を握った。競艇士、競輪士、オート士、競馬士、ブックメーカーの悲願であった。
「第五コース! 青組の約束されし栄冠のディザイア近藤くん!」
約束されし栄冠のディザイア近藤は肥えた腹を撫でた手で前髪を整えた。
「僕はフィアンセの増井さんの命を借りるよ。余命二ヶ月だ」
観客席から罵倒が飛んだ。残された時間は少なかった。
「そして第六コース! トランスペアレントレッドオキサイド組から佐藤さん」
佐藤さんは言った。
「私は虎の胃を借り、唯一の生存者となる」
緊迫のひととき。
「では位置について……ヨーイ」
阿鼻叫喚のカリモノ競争が、いま、始まる。
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