邪聖剣ガーリックスメル
フェアバーン領マルカス北方に大口を開ける巨大な洞窟――通称、
永劫に等しい時を鍛冶に充てたがため左目を潰し、老いた躰を痩せさらばえ、しかし右手と右足だけは異様に発達させた男。
「……来おったか……」
何百年ぶりの発声なのだろうか。声は
オルクは我知らず喉を鳴らし、同道の戦友たちに振り向く。
「この方が……本当に?」
「伝説通りなら、ね」
カルガ族の魔法士メウルゥが囁くように言った。
巨躯の戦士バズロが那竜種特有の二種重複音で老人に尋ねる。
「あんたが伝説の鍛冶師ミ・ギか?」
「伝説……伝説か」
老人は鼻を鳴らした。
「いかにもミ・ギとは儂よ。歴史に伝えてもらうほどの価値もない鍛冶師だが」
ミ・ギは丸太のような右足で地を蹴り、椅子を回した。手に、鍛冶の灯をかき消す、強烈な銀色を握っていた。
咄嗟にオルクは剣の柄尻に手をかけた。続いてメウルゥが杖の頭飾りに嵌め込まれた黒水晶をミ・ギに向ける。
ほ、ほ、とミ・ギが笑った。
「何を怯える。ここまできた褒美に、伝説の剣をくれてやろうというのに」
「伝説の、剣?」
「そうとも。儂はこの剣を超える剣を打つためにこの地に潜った」
言って、老人が銀色を傾けた。
それは短剣だった。
刃の長さは僅かに人の男の肘から手首ほどまでしかなく、柄は手のひらとほぼ同じ長さ。柄尻から刃先までを合わせて人の前腕と同じくらいの大きさの、片刃の短剣でしかなかった。
オルクは訝しげに尋ねた。
「伝説では……俺は、この地の鍛冶師から剣を授けられると……」
「そうとも。それがこいつだよ」
「……俺はてっきりあなたが打った剣だと……」
「儂の知る伝説じゃあ、そうは
オルクはミ・ギから短剣を受け取った。
見惚れるような刃筋はたしかにあらゆるものを両断しそうに思える。
だが、しかし。
この見覚えのある形は――。
「包、丁……?」
オルクの目には、牛刀にしか見えなかった。
「そうとも」
ミ・ギが笑った。
「あの魔界
ミ・ギの言葉に、メウルゥとバズロが目を見開いた。
「な、ばかな……」
言葉すら見失いかけている。
オルクは剣を見下ろし心中に呟く。
――なぜ、ナマス切りに?
「大蒜は、普通、薄切りでは……?」
ミ・ギの笑い声が闇に溶けた。
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