本島にあった怖い話・後

「うーん……嘘から出たまことのビックリ系かぁ……いまいち。作りすぎ」


 カラン、とチマコの手元でアイスコーヒーの氷が崩れた。


「手厳しい……が、この話には続きがあってな?」

「ほう」

「引率の先生がすっ飛んできて、先に行けって急かされて」

「怖っ」

「いや怖いのはその先」

「まだあんの?」


 海人は床に腕を突っ張り、顎をあげた。

 

「神社につくと、生徒が集まってきて――」


 大人が怖い顔して話し合ってるの。

 神憑き出たから中止にしよか、みたいな話。

 警察――まぁ駐在さん一人なんだけど、来てさ。

 本当は神事を見学する予定が、中止にしようかって。先輩なんか俺に抱きついてきちゃってさ。


「ごめんね。ごめんね」


 って。

 俺、逆に冷静になっちゃって役得、みたいな。

 でもまぁ、神事はやらんとだし、短縮版みたいなのやることになってさ。巫女さんが舞を奉納するのを皆で見て。焚き火の火の粉を団扇で扇ぐの。空に向かってさ。それが天国に架かる梯子になんだとさ。

 さすがに先輩も落ち着いきて。


「さっきはごめんね」


 とか照れ照れ言われてこっちも照れちゃったりしてさ。いい思い出だよ。

 で、また船に揺られて帰って。途中、気持ち悪くなったから、行きのは本当に船酔いだったんだなって感じで。

 家に帰ったら、爺さんしかいなくてね。

 子供だから、先輩みたいに、爺さん怖がらせてやろうと思ってさ。

 話したの。

 したら。


「ハハハ」


 とか軽く笑い飛ばされて。

 怖くないの? って。

 したらさ。


「だって神さんがワンピース着てるわけねぇもの」


 海人が言い終わると、チマコが呆れた目をしていた。


「……オチそれかよ」

「まぁ、そうそう怖い話はねぇわな」

「ないんかい」

「……爺さんがさ」

「あるのか」

「『そら神憑きだよ』って」

「……急にくるじゃん……」


 海人は天井を見上げたまま続ける。


「島に子供を連れてく風習は本当なんだと。神様に欲しい子を選んでもらうんだってさ。で、皆で目ぇ光らせてるのに、本当に子供が消えることがあると。そんときは、みんな黙ってるの。神様の仕業だから。けど親は悲しいじゃん? だから、代わり子って言って、町で引き取った赤ん坊をあげるんだとさ」


 チマコが喉を鳴らした。


「じっとり系かぁ……」

「でも、そんなんで納得できない親もいるじゃん?」

「そらね」

「探しにきて、騒いだりとか。それが『神憑き』」

「……怖っ」


 海人はチマコに向き直った。


「で、爺さんが笑いながら言ったのよ」






 お前は代わり子だから平気だぁ。

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