本島にあった怖い話

「落ち着けチマコ。ちゃんと怖い話もあるから、その手刀をしまえ」


 海人かいとは怒れる同期のチマコに言った。


「俺ほら、小学生くらいの頃、海沿いの田舎町に住んでたって言ったろ?」

「……山の麓じゃなかったかね」


 チマコの目は据わりきっていた。

 海人は慌てて続ける。


「それは二度目の転勤のとき! 本当! 一度目は海の方だったんだって!」


 チマコにアイスコーヒーを淹れてやり、なだめすかし、リビングに座してもらって、海人は話し始めた。


 海沿いっていうと陽気そうに思うだろ?

 でも全然そんな感じじゃなくてさ。

 夏になっても肌寒くて海岸はいつもガラガラ。娯楽っぽいのは何にもなくて。

 けど、たまたま。たまたま俺がいた年は送り島って祭りのある年でさ。

 なんでも六年に一回、ちょっと離れたとこに浮いてる架空本島かくうほんとうっていう、変な名前の島に日帰りで行くって。

 それも小学校の全校生徒が一同に。

 まぁ全部で百人ちょっとなんだけど。

 俺まだ三年生でさ。来たばっかだったし、知らなくて。

 不安そうに見えたんだろうな。五年生の女の子が言ってきたのよ。


「島で白い服の女の人を見っけたら騒いじゃだめだよ。持ってかれるよ」


 って。

 俺、震え上がっちゃって。まだ子供だし。

 なんでって聞いたら。


「神さんが可愛い子を選ぶ日なんだよ」


 って。

 だから綺麗な格好で行くんだよって。

 俺、真っ青になってたみたいで。フェリーの甲板で背中さすられたりして。

 んで、港について引いたよね。

 みんな白い服を着てるの。爺さんも婆さんも。おばちゃんもおじさんも。

 ひぇ、って声が出て。上の学年の女子に爆笑されて。

 からかわれてたんだろうな。

 でもそんな余裕ないよ。

 神社まで歩くっていうから、俺、縮こまっちゃって。

 道は細いし、荒れてるし、だんだん離れちゃって。

 したらさっきの子が手ぇつないでくれたのよ。

 ごめんねって。

 そんな感じかと思ったら。


「手ぇ繋いでていい?」


 震えてるの。

 

「後ろ。ついてきてるよね?」


 ちらっと見たら。

 いるの。

 白いワンピースの女がさ。

 じっとこっちを見ながらついてきてる。

 だんだん足音が近づいてきて。

 あ、やばい。

 助けて。

 そんな気分。

 ざしっ。

 ざしっ。

 ざしっ。

 って。

 音がデカくなって。

 手の力が凄い強くなったんだ。痛いくらい。

 ひっ。って肩をすぼめたら。

 女が横が通り過ぎてってさ。

 そらもう。

 

 ほっ、とした。


 その瞬間。


「私の子はどこにいるの!?」


 って女が叫んだんだ。

 凍りついたよね。俺も、手ぇつないでた先輩もさ。

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