かんざすしてぃ昔話

 昔々ミズーリ州カンザスシティのトム・ペンターガスト庇護下でインセインお爺さんとアグリーお婆さんが非合法に酒を売りぬいていました。


 ある日のこと、お爺さんは縄張りシマで酒を売る若造をヒッコリーのバットでしばきに、お婆さんは違法ナイトクラブの開店準備に行きました。


 すると、お婆さんの店の裏路地から赤ん坊の泣き声がするではありませんか。


 時は一九二八年。夜は暗黒に呑まれ、カウント・ベイシーのピアノはブルー・デビルズの一員として鳴り響いています。


 赤ん坊には千切れたへその緒。傍には股から血を流す娼婦。胸に刺し傷。散らばる小銭は黒く濡れ、鉄錆の匂いは紙幣の形に切り抜かれています。


「変態相手に商売するからだよ。迷惑な話さね、まったく」


 お婆さんは娼婦の上着を剥ぎ、赤ん坊をくるみました。


「おお、よし、よし。あんたはカンザスの子だよ。名前は……」


 壁に剥げかけののポスターがありました。

 お婆さんは邪悪な笑みを浮かべ名を授けます。


「タロウだ。あんたはカンザスが産んだブルータル・タロウ」


 タロウを家に連れ帰ると、お爺さんが吠えました。


「なんだそのガキは!? ババア! 浮気しやがったな!? どこのクソだ! ぶっ殺してやる!!」


 ヒッコリーのバットは二十二人目の犠牲者を探していました。

 お婆さんは引き攣るように笑います。


「バカだねアンタ。タロウはカンザスシティが産んだんだよ」

「何!? カンザスが!?」


 インセインお爺さんは破顔しました。


「なんてこった! なら出産祝いがいるじゃねぇか!!」


 二十二人目の犠牲者が決まりました。


 聖なるコルトM一九一一を与えられたタロウは、お爺さんの狂気とお婆さんの悪徳で、残忍ブルータルの名に恥じぬ男に育ちました。


 しかし。


 禁酒法は三三年に終わり、三五年にカウント・ベイシーが独立、さらには『ビッグ・トム』ペジンスキーが三九年に脱税で逮捕され、四五年に大腸癌で死にました。


 お爺さんさんはくたばり損ない、お婆さんは店を手放し、後ろ盾まで失ったのです。


「あばよジジイ。ババア。感謝の祈りは向こうで聞きな」


 四七年のカンザスシティ。

 

 聖なるコルトが火を吹きました。


 タロウは爺さんのバットを左手に、婆さんの総入れ歯をポケットに、カンザスシティに新たな秩序を取り戻すべく家を出ました。


 が。


 ブルータル・タロウが、クルーエル・ドッグ、マッド・モンキー、サヴェージ・フェゼントを従え、カンザスに血と暴力の嵐を吹かせる話は、また別の機会に。

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