開発遅延を無視してロードマップ通りGW狙い見切り発車した年内サ終候補筆頭ソシャゲ転生~夏休みまでに完凸アリーナで資金回収しないとゲームと共に俺も逝くNPC生活~

 死んだはずが生きてた。それはいい。悲しんでいる余裕はない。

 街の、嫌でも目につく敷地に立つ、開発中の看板。


 何か。俺は知っている。闘技場アリーナだ。ユーザー間で戦わせる施設――ゴールデンウィークという誰しもが時間をドブに捨てる期間に金も捨てさせようという、起死回生の一発逆転三連単ホームラン


 俺の心臓が加速した。胃袋が縮こまる。血便と血尿の予感。毛根が焼ける音が聞こえる。手が震え、耳鳴りがし、左まぶた痙攣けいれんした。


「ゲームの世界、なら」


 やろうよ、形式美。


「ステータスオープン」


 眼前に現れたに俺は慄然りつぜんとした。


「同時接続:五〇〇〇――管理者ステータスか……!?」


 同接に制限をかけたらしい。その証拠にログインサーバはDDoS攻撃じみたリクエストに晒されている。


 なぜ? 簡単だ。


「予算の大半を絵師と声優と宣伝にかけたから――」


 ログイン成功者――選ばれし者のなかの石油王が尋常ではない課金をしていた。

 泣く子も精通させる絵師に、脳を弄ぶ声優をあて、排出率五パーセント五百連一確の限定キャラを五トツで専グラ専ボ。そりゃ回す。


「ロードマップはどうなってる……!?」


 俺は震える手で情報を探した。


「――なっ、バカな……!?」


 開発遅延を無視した予定表。足りないリソースを黒い労働時間で補っていたのに、メインの俺が死んで、今は後輩のポンコツ真壁まかべが唯一の戦力のはず。ほかはボンクラ。ネットの評価は散々。


 だが、止まらない。

 奴は止まらない。

 社長室で見たら転職推奨のプレッサンドで腕組みしていた髭が。

 七分丈のシャツ着てエアろくろを回していた、あの髭が。


『ソシャゲでメタバース』


 配信動画でそう言ったあの髭が、止まるはずがない!


「死ぬのか、この世界は」


 死んで当然だ。

 メモリダンプで強制終了するまで走り続ける村の子どもも。

 並列ループ処理でエラーを吐いて不正遷移を繰り返す店主も。

 あらゆる場面で課金を促すメイン幼女も。


「皆、死ぬ」


 ソシャゲの摂理――いや、ダメだ。

 どうせ死ぬなら、ビジネスモデルが破綻するレベルの華々しい死を迎えなければ、


 あの髭が悲劇を拡大させてしまう。


「だったら――」


 俺は立て看板を睨んだ。

 実装待ちの新キャラタマはあるのだ。大量に。

 彼らを消化し、爆散すれば、あるいは。

 課金させる。

 育成パックと数種のパスを買わせ非凸人権なし世界にする。

 新キャラが常に既存環境をメタる――。


「待ってろ、ポンコツ。俺が、世界を壊してやる……!」


 俺は看板を引き抜き、天に誓った。

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