ガチャガチャ

 先取りゴールデンウィークと称し、樺木菟かばっくは無断で実家に帰省した。望まれざる帰郷は迷惑がられ、彼は童心に返ると嘯き街に出る。徒歩三分の小学校は授業中。門に警備員。不審者向けの眼差し。


「俺の居場所はないのか」


 呟くと、警備員の眉間に皺が寄った。


「何か御用ですか?」


 両手を広げ、じりじりと接近してきた。警戒どころか確保に動いている。


「あ、いえ。お仕事がんばってください」


 カバックは慌てて会釈し、足早に通り過ぎた。肩越しに見ると、警備員が無線を手にしていた。

 昼間にきた俺が悪いのか……いや、田舎の排他性がうんぬん。

 カバックは不穏な妄想を脳内で展開しつつ移動する。のどかな田舎に突如あらわれる十七階建てマンション。ベランダに洗濯物はない。入居者募集の立て看もない。


「まだあったんだ、これ」


 バブル崩壊に伴う地価暴落が生んだ再開発狙いに箱だけ建てるという博打の結末。田園の楼閣。子供の頃の夢だった。今はもう叶わない。ディベロッパーが破綻したから。

 でも、これがまだあるなら、とカバックは進む。

 あった。

 住宅街に紛れる駄菓子屋。昔はよく――


「ガチャ、ガチャ、を……?」


 縦三積み横五列ものガチャガチャが、二箇所。計三十台にも水増しされていた。


「ガチャの、ガチャ?」


 一回百円。黒マジックで①と殴り書かれた台に、次のガチャの抽選券が入っているという。


「……まぁ、記念か」


 カバックは百円を投じガチャを回した。ポンと出てくる赤い玉。開くと小さな紙にくるまれたメダルがあった。


「……N?」

「ノーマルガチャ券だね」


 突然の声に振り向くと、あの頃と変わらぬ姿のババアがいた。


「Nガチャはノーマルしか出ないよ」

「……レアガチャ券もあると」

「五百円ならアルティメットレアガチャガチャを引けるよ」


 それならとカバックは台を見た。URガチャ券が一割も入っている。SRガチャ券が三割でNガチャ券が六割。ええいままよと引くと。


「お?」

 

 金色の玉が出て、ババアが舌打ちした。

 ざまあみろと指定された台に行き、カバックは目を見開く。


「UR五パー!? URガチャなのに!?」

「せっかく当てたのにやめるのかい?」


 ババアに煽られ、カバックはメダルを突っ込んだ。

 コロンと出てきた玉には、また紙が。

 今度は、二枚。

 ババアが勝ち誇る。


「SRガチャ券二枚だね」

「……これ景品法――」

「ガチャは懸賞法だよバカだね」


 さらに五千円を投じ引き当てたとき、カバックはたしかに童心に返っていた。

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