全知のポンチョ2
もちろん彼は背筋を伸ばす。
テレビのニュース。全知を与える
あの日の博物館で猫を連れていたのは万智音だけだ。
いや博物館の歴史上でも初めてかもしれない。
その意味では猫類初の来館者として歓迎されるべきなのだが。
「……まぁ無理だよな」
万智音は呟いた。ピンポンピンポン鳴っていた。在宅を確信している呼び方だった。放っておけば扉を叩くに違いない。
「どうしてくれるんだよ」
頭を撫でるとあくびした。本当に全知なのだろうか。だとしたら知っていてとぼけていることになる。無い話ではないから困る。
万智音はため息まじりにポンチョを膝から下ろした。
「はーい今あけますー」
呑気を装い答えてドアスコープを覗く。黒スーツの男女二人組。目が怖い。死んでいたのだ。まるでガラス玉。目の下のクマを合わせると単なる極度の寝不足だが。
「どちらさまですかー?」
今度は平静を装い扉を開けた。正面の男が手帳を抜いた。神器保安庁。馴染みのない官庁だが桜の御紋から察するに警察がらみか。
男が口を開くと先んじて背後の若い女が疲れた声で言った。
「猫を連れて博物館に来ましたね?」
男が迷惑そうに女の方へ振り向いた。女は無視して続ける。
「監視カメラで足取りを追いました。隠しても無駄ですよ」
「……はい」
そうでしょうねと万智音は部屋に招き入れる。
二人は万智音が座っていた薄ぺらい低反発クッションの前で丸くなるポンチョを一瞥して顔を見合わせた。
「あれか?」
「多分。顔が左右非対称ですし」
特徴のひとつだ。
女が言った。
「あの賢者の石に触った猫の飼い主は――」
「俺です。
「変な名前……猫を起こしてもらえます?」
いや自分で起こせば? とは言うまい。万智音は名を呼んだ。
「ポンチョ。ポンチョー」
猫がピクンと耳を立てて迷惑そうに躰を起こした。迷惑そうは余計かもしれない。
女が腰を屈めて手を伸ばす。
「浜那須ポンチョさん。あなたを取り調べなくてはなりません」
猫が不思議そうに首を傾げた。
そりゃそうだと万智音は女に言った。
「ポン
「は?」
振り向く女に、万智音は重ねて伝えた。
「ポンチョはあだ名なんです。本名はポン千代」
伝統に則りポンの一字をもらって万智音が名付けた。
浜那須ポン千代。
それが彼女の名だ。
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