イキ理系
サトルは古い友人からの連絡に眉をひそめた。
『久しぶり。実は今、近くにいるんだけど、時間が空いてたらで構わない……』
外で会えないかと尋ねるだけの文章を十行と三文字に渡って綴る、文系まるだしの内容だ。時間の浪費としか思えない。
しかし、サトルにとって今も付き合いのある同級生は連絡者のみであり、関係を絶つと同窓会の参加も難しくなる。
サトルは唇の端を吊り、返信を書きだした。
『いいよ。〇〇で。△時△分に』
理系らしく要件だけの平易な文だ。送信。
サトルは待ち合わせ場所に向かった。
指定した喫茶店で二十分と七秒を待ち、五分と十二秒も遅刻している友人に現在地点を尋ねようとしたときだった。
「店に入ってるなら店にいるって言えよぉ」
と、友人が苦笑しながらやってきた。
サトルは眼鏡を押し上げ、鼻を鳴らす。
「店の前なら○○の前って言うだろ?」
これだから文系は。
「久しぶりだな、フミ」
「……あー、まあ、サトルとはな」
言って、フミは対面の席に座った。カフェオレを持っていた。ブラックが飲めない子供舌。文系らしい。男の癖にフミと名付けられた点も文系を示している。文系の息子は五十パーセントの確率で文系になるという。フミも確率通り文系に進んだ。
ウチは理系家族で良かったよ、とサトルは窓の外を見やる。
「――で? 文系のお前が理系の俺に何の用なんだ?」
「文系理系は関係ないだろ」
フミは苦笑しながら頭を掻いた。
「こないだ、ちょっと話してさ」
「こないだ? ちょっと? いつ、どれくらい話したんだ? 正確に言えよ」
「正確にって……」
「あぁ、悪い。俺、理系卒だろ? 副詞とか使うなって言われてきたから気になっちゃってさ。フミは文系だから分かんないだろうけど」
「……まぁ、よく分かんねぇけど」
「ほら、まただ。『よく』も副詞なんだぜ?」
サトルは理系らしくブラックコーヒーを啜った。
「ごめんごめん。癖なんだ。理系だからさ」
「それ聞いたって――まあいいや」
フミはカフェラテを舐めるように口に含み、文系らしい、さして難しくもないことを難しく考えていそうな顔をした。
「こないださ、そろそろ、サトルも同窓会に誘うべきじゃないかって話が出てさ」
「ああ、同窓会のお誘いか」
文系なんかに行ってしまったフミもたまには――。
サトルは眼鏡を押し上げた。
「――こないだ? いつ?」
「……日本時間で答えりゃいいの? それとも地球が何回とかいうアレか?」
フミが、文系らしい嫌な笑い方をした。
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