マナー講師界のアナーキスト
「第二回、全日本マナー道選手権大会、直前スペシャルー!」
普段はマナーバトル実況を勤めているアナウンサーが、声高らかに宣言した。
都内の小スタジオ。賑やかしの女性タレントが一ミリも感情の籠もっていない笑顔を作っている。
第一回大会で接し、二度と関わりたくないと思った
「全国のマナーファンの皆様お待たせいたしました。まずは本日のゲストをご紹介しましょう」
きっと今回も面倒くさい手合だろうな、と内心うなだれつつ、アナは手元の原稿を見やった。眉が歪んだ。
マナー講師界の
読んでいいの? とアナはカメラの足元で膝立ちするADに目線で尋ねる。どうぞどうぞと、なんなら、はやくはやくと、促され、
「えー、ゲストはマナー講師界のアナーキスト、
と、横手を示した。
カメラが引いて、赤地に紫のストライプスーツを着た明るい茶髪の男を画角に収めズームしていく。
「アイ、どーも、ご紹介いただきましたニューウェイブ・マナオです。ヨロシク」
「え? あー……ニューウェイブ?」
アナが苦笑いした。
「アイ。新波なんでニューウェイブっすね。マオとかちょいシブなんでマナオって呼んでくれればいいんで」
「なにか、特別な意味がお有りなんでしょうか?」
「アー、バッドマナーすねー」
「……失礼いたしました」
アナは顔を強張らせた。前回、三時間の撮影中ひたすら馬骨に指摘され続けたのがトラウマになっていた。
しかし、マナオは軽い調子で手を振った。
「アー、そんなマジに取らなくていいすよー。ただアレ。マナーとかって、ちょい嘘ってるじゃないすか」
「……嘘っている?」
「アイ。マナーって失礼クリエイションみたいなとこあるんで、あんま、言い訳できりゃ何でもいいんで。不勉強がマナーみたいなとこあるんスよねー」
「不勉強がマナー」
「ですねー。んじゃ行きましょう」
「え?」
アナは困惑しながらADを見やった。『事例』とスケッチブックに大書きしていた。
「あ、えと、それでは早速……こういうときどうするのか、という」
「ですねー。あれすね。メールで『了解』は無理無理っていう」
「……どうしたらいいですか、と」
「スねー。ここは『承知』いっときましょう」
「承知いたしました?」
「やー、合点承知の助っ! すねー。エクスクラメーション前にひらがなの小さいつ置くのが大事で――」
これはこれで、長い収録になりそうだった。
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