KACのお題をトレパクにしたいマンの誤送

 恋人たちとチョコ好きにとっての祝祭日が明けた。

 その静けさを、着信音が切り裂いた。


『KACのお題:トレパク』


 差出人不明のメールボム。受信箱が秒で埋まる。

 加治木かぢき真玄まくろは舌打ちをくれ、公衆便所に駆け込んだ。


 ――なんだこれ!? なんか記憶にあるぞ!?


 手早く変身を済ませ、発信元を中継基地局の送受信範囲から割り出すアイで街を睨む。近い。

 加治木真玄――いや、カジキブラックは、切妻屋根から入母屋屋根、錣屋根、鋸屋根と飛び移り、送信地点へ殺到した。

 男が、笑っていた。

 何事もなかったかのように平然と、愉しげに、飄々と嗤っていた。


「貴様! ……は、酒の席だったマン……?」

「カジキブラック!?」


 男がびっくり振り向き、両手を上げた。


「ここに何をしに来た! その追跡法は電波法違反だぞ!」

「いや……お前、KACって何だ?」

「何ぃ!?」


 男が慌ててスマホを見やった。


「……すまん」

「答えろ! KACとは何だ!」

「小説投稿サイトだ!」


 男が顔を赤くして貯水塔から飛び降りた。


「周年イベントでお題小説を書くって企画があって、お題を募集していたのだ!」

「ぐっ……!?」


 小説を書いたことは、あった。若かりし頃は誰でも一度くらい……


「い、いや!」


 カジキブラックは流されそうになる自分を奮い立たせるように、吠えた。


「お、お題小説だとして、なんで、お題がトレパクなんだ! 創作の世界では一番やってはいけない行為だろう!?」


 そうだ。


「トレースしたければすればいい! 手に線を覚えさせるのもありだ! だがパクがついているということは、人の作品を盗んだということだ! 違うか!?」

「だからその話をお題にしたいんだよバカ!!」

「なっ――!?」

「あいつなんなんだ!? 人体の構造とか考えたことないのか!? トレスするにしたってもうちょっと元の写真をみたりしないのか! それで金を取るだと!?」


 男は腰を折り、カジキブラックの顔を覗き込む。


「だが、売れた。このサイトのバックも大小かならず繋がりがあるはずだ」

「――お前! なんて危険行為を!」

「大量に送り、採用されたらネタに。断られたら擁護してると騒ぐのさ」

「ぐっ、こ、この――!」


 両拳を握り固め、唇を噛むカジキブラック。

 男は、カジキブラックのマスクを掴み顔を上げさせた。


「さぁ、お前も参加しろ」

「い、いやだ」

「正義の味方じゃないのか!?」


 男は背を仰け反らせて驚いた。


「酒が飲みたくなってきたな!」


※本話は自作からのトレースです。

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