ドウチョウアツリョク

 何度目の連絡だったか覚えていない。

 旧い友人からの連絡で、


『頼むよ、同窓会きてくれよ。来ないのお前だけだよ』


 という内容だった。当然、相沢は断った。何度、断ったのか、覚えていない。しばらくしてから来たのは『一回、会って話そう』という内容だった。

 相沢はウンザリしながら待ち合わせの場所へ行き、遠巻きに観察、実は同窓会でした、なんて展開にならないことを確認した上で落ち合った。


「なぁ、頼むよ。来てくれよ。マジでさ」


 友人もウンザリした顔だった。コーヒーを奢ってくれるというから話を聞いてやっているが、絶対に行く気はなかった。


「いや、乗り気じゃないの連れてったってしょうがないだろ。てか、なんでそんなに俺に出させたいんだよ」

「別に俺は出させたくねぇよ」

「どういうことだよ」

「俺、幹事にさせられてて、みんな来るからって――」

「ひとり以外は集めたとかすげぇだろ。十分じゃね?」

「やりたくてやってんじゃないんだって。ドウチョウアツリョクだよ」

「……は?」

「幹事をするなら俺がいいって、みんな言うから断れなくてさ」


 友人はため息をつき、コーヒーを啜った。


「日本人ってドウチョウアツリョク強くて困るよな」

「……いや、同調圧力の研究したのはワルシャワ生まれのユダヤ系アメリカ人だぞ? 向こうの連中のが強いに決まってんだろ」

「何いってんの? お前」

「本当だよ。調べてみ?」

「じゃなくて、俺が言ってんのは、ドウチョウアツリョク」

「……ん?」

「ああ、なる」

 

 友人は苦笑した。


「オナチョウだよ、オナチョウ」

「……同町圧力?」

「みんな同じ町の出だろ? 断られるとマズイんだよ、ドウチョウアツリョクが」

「それこそまさに同調圧力だろ」

「じゃなくて。物理的に」

「……物理ってなんだよ」

「だからほら、金属の銅を超えるアツリョクがさ」

「銅超圧力……? いや意味分からん」

「違くて。銅を超える熱の力」

「銅超熱力……なに? なにされんの?」


 相沢は頭を掻きながら尋ねた。


「だから、ドウチョウがアツリョクかけてくんの」

「……待った。当てる。道に省庁の庁で道庁圧力。どうよ」

「いや違う。動く胃腸の腸よ」

「……あ?」

「ちょっとトイレ行ってくるわ」


 ニヤリと笑い、友人が席を立った。相沢は苦笑しながらコーヒーに口をつける。

 ふいに視線を感じ窓を見やると、旧友のひとりが、腹の前でノートを広げていた。


『見つけた』

 

 と書かれていた。


「胴、帳、圧、力……」


 図られた。相沢は舌打ちした。

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