ゾク! 夕陽のガンマン
いまや大監督となったクリント・イーストウッドだが、俳優としての出自はマカロニ・ウェスタンにあると言ってもいいだろう。
要するに。
イタリア製のアメリカ西部劇でマッチョなカウボーイを演じたクリント・イーストウッドが、最新の監督作『クライ・マッチョ』で過去の自分を顧みようとしている。だから、往年のファンも昔の彼を見とこうぜ、と再放送されているのだ。たぶん。
「いや、若いなー……」
最初の感想がそれ。そりゃそうだ。もう爺さんになってからの方が長い。リアルタイム世代を除けば、特別な意志でもないかぎり、若かりしクリントの、この、
「眩しそー……」
な渋い眼光は知らない。演技の基本は今とそう変わらない――つまり、彼はこの頃に培われたクリント・イーストウッドを生きてきたのだ。
てか。
「……こんな話だっけ?」
私は画面に呟いた。マカロニ・ウェスタンにこんな話もクソもない。悪人同士が金やら復讐やらを巡って争い、決闘する。そこさえ揃っていれば誰も細かな話は気に――しな、い――。
「パーカッション?」
銃が気になった。パーカッション式だったのだ。すなわち先込めである。
「まあ、南北戦争時代ならな……」
いわゆる西部劇の銃として知られるコルト・シングルアクション・アーミーが世に出るのは一八七三年。南北戦争は一八六一年から六五年まで。劇中の時代には存在しない。カートリッジ式の普及前夜だ。
つまり、クリントの役柄は最新式のコンバージョンモデルを――などと、考えている内に、もう決闘が近づいていた。
「……薬莢?」
敵役の銃が気になった。ガンベルトに薬莢が並んでいる。が、しかし、ホルスターには雷管式の銃がある。ベルトか銃のどちらかが拾い物なのだろうか。
『この野郎! 弾を抜きやがったな!?』
今作のクリントの相棒、卑劣漢が言った。
「……抜いた?」
卑劣漢の銃は雷管式だ。弾を抜くには、雷管を外し、鉛玉の前に詰めたグリースを取り除き、弾倉を逆さまにして、気長にトントコ叩くしかない。
いや、起きるだろ。
というか、お前コンバージョン使ってなかったか? てか、重さで気づけ――と思った瞬間だった。
ゾク
と、私は寒気を覚えた。
私はもう、マカロニウェスタンを純粋に楽しめない躰になっていたのだ。
『ごめーん!』
画面の中で、卑劣漢がクリントに謝っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます