眠れる森の普通の子
あるところに、子宝に恵まれず悩む普通の王様と、普通の王妃様がいました。日々、普通に励んでいるのですが、普通に成果がでません。
普通の王妃様は普通に、
「私のせいかもだし、お医者様に見てもらおうと思うの」
と相談しました。王様も普通なので、
「僕も検査を受けるよ。頑張ろうね」
と普通に応じます。結果は普通でした。どちらも普通だったのです。悩みが普通に深まります。
そこに、普通の蛙が現れました。
「普通に一年以内に、普通の子が生まれまっせ」
二人は普通に励まされ、普通に励みました。すると、とうとう、普通に妊娠したのです。
王様は普通に喜び、普通の魔女たちを普通の祝宴に普通に呼ぼうと思い立ちます。
しかし、普通なお土産が普通に足りませんでした。このとき、王様は、仕方なく魔女の一人をリストから外しました。
呼ばれなかった魔女は普通に怒りました。普通ではないと分かっていながら普通に呪いをかけたのです。
「生まれた子は十五になると普通な紡ぎ車の普通の針に刺され普通に死ぬであろう」
人が死ぬとは、針はどこに刺さるというのでしょう。
普通に怖くなった王様は国中の紡ぎ車を破壊するよう普通に命令しました。普通に可哀想になった普通の魔女が、普通に言います。
「普通に呪いを弱め、普通に百年眠るくらいですまそう」
果たして、普通の子が普通に生まれました。顔も気立ても普通。頭の出来も器量も普通。何から何まで普通のお姫様です。
普通のお姫様は普通に十五になり、普通に城をふらついていました。城の誰もが普通に会釈ですませます。
しかし。
普通の姫は、ただひとつ、普通ではないことをしてしまいました。
「……塔、行ったことないな」
普通の塔の上には、普通の紡ぎ車がありました。しかし、王様が国中の紡ぎ車を破棄してしまったがために、お姫様は普通に見たことがなかったのです。
「なんだろ、これ」
普通に近づいたお姫様は、普通に針に刺されてしまいました。
すると、城中の人々が普通に眠り、城は普通の茨に普通に囲まれました。
時は普通に流れます。
国の名が忘れられようとしていたあるとき。
隣国の王子様が散歩に訪れ、城の様子を疑問に思い、普通な老人に尋ねました。
「あれ何なん?」
「さて……? 子供の頃に聞いた話では、城の中で、普通のお姫様が眠っていると聞きましたが……」
「……普通かあ」
王子様は城を見やって呟きました。
「普通もいいよね……」
そうです。普通がよいのです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます