オタクに優しいギャロ
「てか、ダリぃわ」
クラスメイトが言った。
「俺、約束あっからさ、後オタクくんに任せた」
「えっ?」
半ば強制的に任された仕事とはいえ、分担するようにと先生も言っていたのに。
「んじゃ、頼んだ! オタクくん、そういうの好きそうだし、頑張って」
教室に顔を出した友達と連れ合い去っていく。オタクくん、というのは僕のことなのだろう。少なくとも、教室の中心で光っている彼らには、隅で俯く僕の姿が、そう見えるのだ。
「予想してたけどさ」
僕は呟いた。誰に言うでもなく。そういうところが、僕をオタクらしく見せているのかもしれない。たしかめようにも、友達といえる人がいない。
気づけば、僕はため息をついていて、仕事を言いつけられる前まで見ていたマンガアプリの広告に見た文言を口にしていた。
「こういうとき、オタクに優しいギャルがいたらいいのに」
虚しき願望。
そのときだった。
「……分かる」
背後から聞こえてきた低音の響きに僕は思わず振り向き、
「――ヒィ!?」
背中で椅子や机を倒し、悲鳴を飲んだ。
「……俺も、オタクだから……」
僕の後ろに湧いたのは、中背で、頬の痩せた男だった。鼻が高く彫り深く、ラテン系の匂いがする顔立ち。ぐるぐる渦巻く髪に、ドラッグをキメたかのように見開かれた、透き通るような青い瞳。口周りを覆ってもみあげまでつながるワイルドと小汚さの中間にある顎髭。見た瞬間から、ヤベェと直感させる気配が、僕の肌を突き刺していた。
「……ど、どちらさま、でしょうか?」
高校では英語のナチュラルスピーカーとして外個人教師を雇っていたが、こんなヤバそうな人は初めて見た。新任教師には思えない。
男が、黒革のライダースーツのジッパーを下ろし、映画らしきDVDケースを引っ張り出し、僕の方へ突き出した。
いまどきDVDて……とは思った。でも刺激したくない。僕は恐々、受け取った。
「バッファロー……
「……俺が撮った……優しいギャルに出会う話……」
僕は確信した。ヤベぇ奴だ。
男はもう一つDVDを出した。
「……ブラウン・バニー?」
「NTRだと思いこんで脳が壊れた後の話……」
「……えと……お、お名前は……?」
僕はパッケージにある男の名前を読み上げた。
「ヴィンセント……ギャロ……?」
男は嬉しそうに自分を指差した。
監督、脚本、演出、音楽、主演……どこを見てもギャロ。
ヤベェ、と思った。
僕は、ヴィンセント・ギャロに、同族とみなされている。
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