酒の席だったマンの復活

 聖夜前の静けさを、着信音が切り裂いた。

 

『いやご迷惑をおかけしました(笑)飲みすぎました(笑)』


 差出人不明の無差別爆撃。タイムラインが謝罪文で汚染されていく。

 加治木かぢき真玄まくろは舌打ちをくれ、公衆便所に駆け込んだ。

 ――なんて奴だ! まだ二週間も経ってないぞ!?

 手早く変身を済ませ、発信元を中継基地局の送受信範囲から割り出すアイで街を睨む。近い。

 加治木真玄――いや、カジキブラックは、切妻屋根から入母屋屋根、錣屋根、鋸屋根と飛び移り、送信地点へ殺到する。

 男は、笑っていた。

 何事もなかったかのように平然と、愉しげに、飄々と嗤っていた。


「貴様! なぜここにいる!」

「なぜと言ったか、カジキブラック!!」


 男が悠然と振り向き、両手を振り上げた。


「許しを請いに来たのだ! さあ、私を許せカジキブラック!」

「お前、あれだけ騒いでおいて――」

「酒の席だ!」


 男が勝ち誇るように嗤った。


「許せ。許すのが正義だ。違うか?」

「抜かすな! 二週間前だぞ!?」

「だからなんだ!」


 男が、トン、と貯水塔から飛び降りた。


「君もやったことがあるはずだ。騒ぎ、面倒をかけ、自己満足で謝罪したことが!」

「ぐっ……!」


 心当たりは、あった。若かりし頃は誰しもが――、


「い、いや!」


 カジキブラックは流されそうになる自分を奮い立たせるように、吠えた。


「それは正当化にすぎない! 本来は、やってはならないことのはずだ! 二度としないようにと振る舞うのが正しいはずだ!」


 そうだ。


「病身を医者に癒やしてもらったからといって、医者を目指す奴があるか!? 二度と医者に迷惑をかけぬように自助努力をするのが、正しい道だ!」

「酔ってただけの人間を糾弾するか! 貴様、それが正義だと!?」

「なっ――!?」

「立ち直った私が過ちを認め許しを請うているのだ。強者であるお前は――」


 男は腰を折り、カジキブラックの顔を覗き込む。


「許せ。許せないなら、貴様が悪だ」

「おのれ――バットマンのジョーカーみたいなことを!」

「謝ってるじゃないか! 許せよ! また病んで飲んじゃうぞ!? 追い込む気か!? なんて酷いやつだ! この外道!」

「ぐっ、こ、この――!」


 両拳を握り固め、唇を噛むカジキブラック。

 男は、カジキブラックのマスクを掴み顔を上げさせた。


「さあ、許すと、言え」

「く、ぅぅ……ゆ、ゆる……す……!」

「フッ! フフ、フハハハハハハ!!」

 

 男は背を仰け反らせて嘲笑った。


「これからも、よしなにな! フハハハハ!」

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