クリスマスを覆う影
二〇二一年の暮から二二年の初頭にまたがる冬の間に日本政府の司法機関は、クリマスという古代の奇祭について秘密調査を行なった。SNSの普及についていけない自称アナログ人間たちがそれと知ったのは二月のことで、その頃には、すでに大勢が逮捕され――周到な準備のもとに――コロナ禍下の大学閉鎖に伴い閉じたシャッターだらけとなった商店街は、軒並み嫉妬の炎で焼き払われ、爆発させられるという処置が施された。二周遅れの情報を最新と信じるネット住民たちは、この事件を、【朗報】リア充爆発した、などと嘲笑していた。
しかし、一分一秒でも早く、長くバズろうと生き急ぐ連中は、異様なまでの逮捕者の数と、押収されたケーキの数、そして、未使用のままこっそり廃棄された大量のコンドームという点とを、怪しいとにらんだ。
クリマスなる奇祭は何を行なっていたのか。5G電波ウィルスの実験だとか、コロナ陰謀説を裏付ける証拠を破棄するためのダミー情報だとか、怪しげな説が無数に伝えられたが、結局はっきりとしたようすは分からなかった。
ただ、あるネットチャンネル――特に読み上げるでもなく文字動画を大量に投下している再生数四桁弱のチャンネル――だけは、ホテル・セントクルスの休憩一時間無料と宿泊二千円コースの存在を報じていた。
しかし、膨大な逮捕者を生んだクリスマスなる奇祭と、ラブホテルの割引デーが重なるなどとは、とうてい考えられなかった。
私いがいには。
ここに私は、全てを書き残しておこうと思う。というのも、事件の大勢が決まってしまった今となっては、当の奇祭にまつわる様々な秘具も、言祝ぎも、忌まわしき儀式であったとしても、またTOCANAかの一言で済まされてしまうであろうからである。
そしてまた、何を隠すことがあろう、私こそがクリスマスの奇祭のただなかにいて、あの禍々しき赤衣に髭面の老夫たちを見、当局に仔細漏らさず報告した者だからである。
そう、あの、十二月二十四日から、十二月二十五日に渡る、悍ましき夜の話を。
あの頃の私は、広まるコロナの影響で二年も大学に通うことが叶わず、この際ならばと休学届を出し、一人旅行に出ていた。
私は建物の屋根を見るのが好きで、切妻屋根や、切妻破風の屋根や、円屋根や、少しくぼんだ駒形屋根や、差し掛け半切妻屋根などを探し、古い街を歩いていた。どうせ大学が休みなら、人気も少なかろうと、商店街に立ち寄ったのだった――。
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