都市観光
「――ですかー」
「続きはタイミング合ったら、って感じで」
「あー……いや、ダメなら、お互い次いきましょ」
愛は、男をキープ枠からナシに格下げする。
「すいません。まだ慣れてなくて」
大嘘だ。マッチングで出会うのは八人目である。昨日と今日とで八人。この後まだ一人を残しているが、全然マッチしないのはAIのせいだろうか?
枯れた休日にトマト
次でダメならアプリ変えるか、と指定のバーで男と落ち合う。夜ならカクテルの一杯くらい――そういう内面がAIの判断を狂わせているのだろうか。
「――愛さん?」
外見よし。清潔感よし。
席を並べて、会話を始めて少し。
「私、旅行が趣味で――」
そう。気のいい同行者が欲しいのだ。
男は嬉しそうに微笑む。
「見ました。僕もです」
「やっとだー。なんでこんな単純な条件が、ねえ?」
男は苦笑した。
「でも、僕のも、都市観光と散歩がメインで」
「えー?」
また外れか、と内心で肩を落とす愛に、
「地域差も面白いですけど――」
男は言う。
「だいたい一、二週間かな。同じルートを巡るんです」
「同じルート?」
「ええ。意外と変化あって。上を見っぱなしで首が痛くなりますよ」
上? と眉を寄せ、愛は尋ねる。
「海外も行かれるんですか?」
「いえ、日本以外じゃ難しいかと」
男は目を瞑り、囁くように言う。
「ちなみに、この辺は赤系の派手なのが多いです」
「へ?」
頓狂な声を上げる愛に、嫌だなあとばかりに男は笑った。
「洗濯物ですよ。外に干すのは日本だけ」
人間、本当に驚くと声も出せなくなると、愛はそのとき初めて知った。
男は楽しげに言う。
「やっぱり単身者向けのアパート巡りがいいですね。たまに、防犯対策かな? 男物の下着が一枚だけ混ぜてあったりして。でも、次の日も次の日も同じだと、ああダミーかあ、みたいな」
「わ、私!」
愛は慌てて席を立った。
「用事を思い出したので、これで!」
「……洗濯物?」
ぞっとした。財布から札を一枚テーブルに捨て、逃げる――間際。
「マッチしてそうなのに」
男の声に身震いし、愛は背中を丸めて帰途につく。途中、何度も振り向き、電車に乗って、降りて、鼓動が落ち着いてきた頃。
「――キモいわ!」
声を低めて叫び、首を上げた。
視界の端に映り込む、マンションのベランダ。街灯に薄っすら照らされる――
違う。
愛は
マッチなんて、してない。
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