うろ覚えによるトロイの戦い

 起源五百年頃、何とかノーンを総大将とするギリシャ軍は、主砲アキレウスの活躍により第一ゲームを先取、浜辺に陣を敷いた。

 アキレウスは燃えていた。前半戦こそ監督との対立で欠場していたものの、後半に入ると驚異の巻き返しを見せ、規定未達ながら打率三割六分六厘、四十六本塁打、九十八打点を叩き出していた。

 もし、前の三人がもう少し塁に出られていたのなら。

 もし、後ろがもっと打てたなら。

 戦いに『もしも』は禁句とされるが、それでも、もしそうなっていれば、トロイアは第二ゲームもストレートで落としていただろう。

 しかし、そうはならなかったのだ。

 アキレウスが故障欠場したヘクトールを晒し者にしたがために。


「大して強くもない癖に主力が欠場。シーズン成績を見たか? センターフォワード名乗って、たったの二ゴール一アシストだとさ。そんな奴を起用するしかないトロイアに同情するよ。もちろん欠場したヘク――」


 勝っておきながら夜遅くまで続いた罵倒に、トロイア軍は奮起した。後にトルコと呼ばれるトロイアの堅牢なディフェンスは流動的かつ若き闘志に満ちていた。

 楽勝でベーグルを焼き続けると思われたアキレウスは、しかし、第二ゲームの途中でアキレス腱を断裂、皮肉にも自身が怪我による欠場となる。

 こうして、双方ともに主力を欠いた。

 もう負けられない。

 状況は〇対四十ラブ・フォーティ。なにはなくとも、先にブレイクしなければならない。

 ギリシャ軍ヘッドコーチ、オデュッセウスはチームを鼓舞する。


「分かってルノ!? もう負けられないなんダヨ!? アキレウスいないデスヨ!? サインプレーデスヨ! やってきたデショ!? なんでもツカウ! 覚えたことダス! 役割マモッテ!」


 長く続く戦いに兵士たちは疲労困憊、ルールの徹底すら困難になっていた。

 オデュッセウスは両手を叩いて吠えた。


「集中ダヨ! ここ大事なんデショ!? 聞いてクダサイヨ! イイ!? 次のアタックで仕掛けるヨ! トロイの木馬! 覚えてマスカ!?」


 兵士の一人が頷く。


「パンターにスナップ、高く蹴ります」

「ソウ! 次は!? どうしマスか!?」

「ハイパントと誤解したトロイアのクソどもをぶっ殺します!」

「ソウ! ラグビー野郎どもに、アメフトの凄さ、見せつけてやりマス!」


 兵士達が吠えた。騙し打ちでも勝てばいい。

 オデュッセウスは静かに言った。


「カッサンドラーに気をつけて下サイネ……今シーズン、二回もトリプルダブル、決めてマスヨ」

 

 戦いは、大詰めを迎えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る