手癖で書く新撰組奇譚

 時は幕末、土地は京――夜ごと四条通にネオンが灯り、祇園ウーファーが地面を揺らす。維新を御旗に上京はたした魑魅魍魎ちみもうりょうが、刀を片手に色街で豪遊していた。

 築いた徳利タワーを蹴倒し、芸鼓の懐に不渡りブラックカードを突っ込み、拒めば維新と騒ぎ出す。

 京の街は悪魔のサバドもかくやといわんやであった。用法が違う気がする。

 ともあれ。

 マッドマックス京都の治安を守ろうと、後にみぶろ(なぜか変換できない)と呼ばれる集団が立ったのだったった。

 名を、新撰組。旧字体だ。

 入隊資格は腕っぷしと度胸、尊皇攘夷と書けること。受験機会は年二回。


「おう! 総司ィ!」

 

 男が吠えた。副長、土方である。刀を鞘ごと肩に乗せ、顎をしゃくった。


「見廻りぃ、行くどぉ……」


 ドスの利いた声に、女と見紛う顔貌の少年――いや鬼ゾリ月代さかやきからするに青年――が、不気味に舌なめずりした。

 名を、沖田という。

 沖田は浅葱あさぎ色のだんだら模様が入った特服とっぷくを纏い、うまやから合わせのスーフォアを引き出す。跨り、キーを捻って、セルスイッチを。

 ガルン! と一吠え、続々と隊員が集まる。

 土方は沖田の後ろに座ると、尊皇攘夷のノボリを右に、新撰組のノボリを左に差して、狼どもに吠えたてた。


出発でっぱつだぁ!」

 

 雷鳴に等しい爆音。しかし速度は蝸牛の如し。ぐわん、ぐわん、と蛇行し、京の街を見廻っていく。

 視線を交わすは死の前兆。町人誰もが目を逸らし、娘は家屋に匿われ、商人はショバ代捧げて厄災が過ぎるのを待つ。

 土方は、それら気概の足らぬ輩を一瞥し、沖田に言った。


「総司ィ……志士ィ、狩るどォ……」

「いいですね」


 ニッコリ笑い、沖田は左を横に伸ばして隊を散会、色街を囲うよう指示を出し、スロットルを思い切り捻った。夜闇に響く鉄の咆哮。舞い散る土塊。背後で土方が刀を抜いた。切っ先を大地に落とし、火花を散らす。

 

「おうおうおう! 背中ァ晒して逃げてんぞォ!?」


 土方が叫んだ。沖田のスーフォアから伸びるヘッドライトの光が、志士と称するダゴンを捉える。


「士道不覚悟ォ!」

 

 沖田は左手を走らせ菊一文字を一息に抜き、引き金を引いた。ロングバレル菊一文字が獰猛な火を吹き、必殺の弾丸を飛ばす。

 ド、ド、ド、と三つも開く血の色の花――。

 一音三射と呼ばれるクイックドロウ。


「ヒィィィヤァァァァオゥ!」


 続けて銀閃走り、死にゆくダゴンの首が舞う。吹いた血が、直前まで相手をしていた遊女の躰を鮮やかに染め、今日もまた、京の夜が発狂する――。

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