JCQ2

「シガニーは四十七という映画への出演を依頼されるのだ。打ち合わせに向かう途中で事故に遭って意識を無くし、目覚めると手元には金塊が」


 ハカセはカントクの口端から溢れ落ちる丸ごと!!カレイバーガーの衣クズを見つめる。

 

「そこにブラッド・ピットが現れて」

「ファイトクラブ?」


 オトが問うと、ぬ、とハカセは顎をぐにょった。頷いたのだ。


「シガニーはサイボーグの殺し屋から逃げるため、七つの大罪事件を追っていた私立探偵と砂の惑星に行く」


 これはあれだ。フィンチャーとリンチの監督作で使われたネタを煮こごりにしているのだ。シガニーは強化外骨格エクソスケルトンに乗り込んで圧搾空気で戦ったりするに違いない。

 甘いぬ。

 ハカセは見透かすように上体を起こし、腕組みをした。


「すると私立探偵が豹変、シガニーはパニックルームに避難する」

「どこの?」


 ごくん、とカントクがバーガーの一口を飲み込んだ。


「赤ん坊の声が聞こえてくるぬ」


 虫ならぬ無視だ。 


「イレイザーヘッド!?」


 B級ならびにカルト映画好きのカメラが興奮しだした。


「赤子のおくるみを開くシガニー。すると肉の塊の中心に人間の耳が」


 フンス、とハカセは鼻息をつく。


「モツを食い破るようにして」

「エイリアンです?」


 オトが今にも吹き出しそうなのをこらえて言った。


「ぬ」

「ぬ」


 部員らの声が揃う。


「そこでシガニーは目覚める」

「――は!?」


 部員らの声が揃う。


「悪夢だぬ」

「えぇー……?」

「タイトル。『一章、怠惰』」


 ハカセの脳内には、ベッドで苦笑しながら頭をかくシガニーがおり、不穏なピアノサウンドが鳴っていた。


「章を追うごとに若返るんだぬ」


 オトが呆れたように言う。


「難解すぎません……?」


 観客にはわけわかめの増える乾燥ちゃんだ。

 ハカセはゆるゆると首を振った。


「主演にカイタムを起用するから平気だぬ」

「……あのアイドルのカイタム?」


 二年ほど前から売れ始めた三人組アイドルJCQのセンターだ。名前との接点がないカイタムというあだ名を希望している。

 何の冗談だ、とカメラが鼻を鳴らすが、


「友達だから出てくれるぬ」

「……は?」


 部員らが怪訝そうな眼差しをハカセに向けた。カイタムは小学校の頃に構想し中学時代に興したジャクリーンJコレクションCカルテットQの大幹部なのだ。


「脈絡のない話を芸術として礼賛するか、推しタレが出てれば礼賛する」


 ハカセは丸メガネを押し上げた。


「それが日本の映画狂の質だぬ」


 彼女はたまにむつかしいことをいう。

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