JCQ1

 日本映像狂質(教室)――通称、JCQの部室では、今日も今日とてドムドムバーガーを肴に制作準備に励んでいた。

 一年生のカメラが言う。


「もう十二月っすよ? どうすんすか? オレ一秒も撮ってないっすよ」


 右隣、二年生のカントクが丸ごと!!カレイバーガーの異形に戦慄しながら答える。


「んなこと言ってもホンがないんだからしょうがないじゃん。ねぇ?」


 齧りつく勇気が出ず、ついつい正面の二年生オトを見やった。

 オトは眉をへの字に曲げて右脇を見やる。机にへばりつく唯一の三年生――


 ハカセを。


「言われてますよ、先輩」

「んぬ」

「うぬ?」

「ぬ」


 ハカセは入学早々、映画製作部を旗揚げし、最初の文化祭で三十分映画二本立ての上映会を開き、全校生徒に畏敬の眼差し――主に畏れ――を向けられた女である。ちなみに二本立ての一本はPOVと称した日常であり、二本目はハカセの日常という三人称だった。

 ようするに、ゴープロとスマホで主観と後ろ頭の映像を取り、セルフメタ映画としたのである。

 POVを見たある者はどこまでがフィクションなのかと興奮し、三人称を見たある者は文学だと絶賛し、教師陣は即日ハカセを呼び出ししこまた怒った。化け物が暴れるシーンの文句が中心だった。ノンフィクションなのだが、信じてもらえなかった。

 そんなことなどつゆ知らず、二年時に入部したのがオトとカントクである。その年はハカセが台本と主演を担当し、才能は枯れたと評された。

 失意のどん底のなか、B級映画好きとして入部したのがカメラだった。


「思うに」

 

 ハカセが重い口を開いた。顎を机に乗せていたので重いのは主に上顎から上の頭部分である。


「思うに?」


 部員らが声を揃えてオウム返した。


「リンチとフィンチャーは良く似ておる」


 ハカセ以外の全員が似てねえだろという顔をしていた。しかし、ハカセが主体的に話し出すとき、事件は起きるのだ。


「混ぜよう」

「何をですか?」

 

 カントクがおずおずと丸ごと!!カレイバーガーを持ち上げた。


「リンチとフィンチャーだぬ」

「ぬ」


 オトがポテトをつまんで頷いた。相槌だ。


「まずシガニー・ウィバーが」


 ハカセがそういった瞬間、カメラがドムドムシェイクでむせた。


「シガニー・ウィバーって」

「主役の名前だぬ」

「主役の……名前!?」


 驚愕だ。かぶりついたばかりのカントクは口と手がふさがっているので目だけでオトにメモれと指示を出す。

 口述による作本が、いま急に始まったのだ。


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