競泳用サイハイソックス
金曜。
スパン! とキャッチボール専用グラブ『キャッチボーラー
「よっ」
グラブを照準にして投げた。白球は弧を描き、短髪メガネの店員の、豊かな胸元へと飛翔、パスン、と右のグラブに収まった。
「おっけーぃ」
気のない声で言い、店員が右膝を上げた。一本の
「ヒィッ!?」
ビビった吉木はグラブで顔を隠した。
ズバン! と球威に押されたグラブが彼の横っ面を殴った。転けた。店員が息をついた。
「軟式だし百二十ないっすよ」
店員の呆れ顔に、吉木は苦笑で応じる。
「……すごいね」
「体幹っすね」
店員が見透かすように言った。外観からは存在を予期できない練習場から店内に戻ると、
「水泳とかいいっすよ」
「この近くプールない……よね?」
まさか店に? ないと言い切れないのが、この商店街だ。
店員は吉木の手を取り長大な棚の間を歩き出す。
「水着?」
吉木は棚を流し見、『それ』に気づいて足を止めた。躰が傾いだ。吉木の。体幹負けだ。
「何すか?」
苛立たしげに眉を寄せる店員。
「これ何」
棚に、昆布みたいなものが下がっていた。
「競泳用
「あぁ。ボディスーツタイプの水着ってダサいんで」
「ダサい」
「お洒落しようと」
「お洒落」
「ハイレグタイプに鮫肌サイハイソックスとか」
伸ばされてみれば緑と黒の横縞。
「このへんの」
店員は腰に手を置き、太ももへと撫で下げる。
「みちっとした肉と産毛が」
「肉と、産毛」
吉木は喉鳴りをこらえた。
「水着と靴下とで、デルタゾーンって浮力帯を作るっす」
「デルタ」
復唱しつつ、吉木は、
「吉木さん」
へっ、と店員が鼻を鳴らした。
吉木は顔を背けた。
「男性用もありぁすけど」
「……男性用!?」
驚き振り向くと、店員が見下すような目で言った。
「見てみぁすか?」
「……泳ぎ方は……」
「必要なら」
「……み、見るだけ」
多分、買わされるのだけど。
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