お、可愛い
真っ昼間に呼び出され、友人の
「帰んべ」
と、和樹が言った。ダルかった。
しかし、
「……なんかどっか寄ってくとかねえんかい」
吉木はつい口に出していた。別に用はない。折角の休みに外に連れ出されて昼から焼き肉で終わるのが気に入らない。もう一個くらいイベントがほしかっただけだ。
和樹は上りエスカレータの青いゴムベルトに手をかけ首だけを振り向いた。
「どっか寄りたいトコあんの?」
「――ねえけど」
実際ない。吉木はデッキに足を乗せ、背中を手すりに預けた。陸の孤島にいつごろからか出現したラスヴェガスもどきのモドキ。映画みて、メシ食って、服をみて、本屋に寄って、締めはスーパーで帰途につく。そんな場所だ。外で焼肉食って冷やかして帰るのはもったいない気がする。それだけだった。
エスカレータを下りて、二人並んでトボトボ歩いて、正面からくる女二人をやりすごした、そのときだ。
間際に二人組に睨まれた。ジロリと。邪魔くせえな、か。何だよこいつら、か。どこを見てんだよ、かもしれない。
自慢じゃないが、吉木は人相の悪さに定評があった。ジジババの後ろを歩けば数回の振り向きから逃げ出され、女は半歩半の間合いを取った。子供だけはなぜかまとわりついたが、それはいま関係ない。
「お、可愛い」
和樹が言った。横をすり抜ける間際だった。
吉木は思わず二人組と和樹を見比べる。
「何? 知り合い?」
「んなわけねー」
「いやだって」
「いやムカつくじゃん」
「何が?」
和樹がため息をついた。
「ジロっとした目で見られるの」
「……ムカつくのはムカつくけど、可愛いって何だよ。言われたらキモくねえ?」
「や。意外と後で笑うよ」
お前は顔がいいからそうだろうけど、と吉木は苦笑する。
「自意識過剰なんだよ。こっちがどう思ってるか、分からせてやるんだよ」
「お前さ」
吉木は頭を掻きつつ言った。
「いい加減、男つくれば?」
「いらねー」
彼女は言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます