生姜鹿無勝丹社3
遡ること二億と五万年前――
やがて天地に
「でも生姜しかなかったんじゃ」
ピアス巫女は棒読みで言った。
悟は半死人の目をして
「いや盛りすぎでしょ」
「盛ってねえし」
巫女の草履の底が細かな砂利を擦った。
「ともかく。ここには何もなかった。土地ばっか広くて土も痩せてたし」
巫女は姿勢を正し、本殿に首を垂れた。衣装のせいか、巫女のハスキーな声のせいか、気づけば悟も背筋を伸ばしていた。
「苦労ばかりの土地に、そいつが来た」
巫女が収めたばかりの千円札を懐から抜き、賽銭箱に滑り落とした。体を起こし、両手を広げるように、大きく前に伸ばす。錆の浮いた大鈴から下がる
「人にあるまじき美顔。スキンケアは完璧だった」
ん? と悟は首を傾げたが、しかし、疑問を口にするより早く巫女が、柏手を、ひとつ、ふたつ。合掌――。
「
葉擦れの音。鼻腔に漂うスパイシーな香り――。
「和尚?」
悟の首の骨が鳴った。
「ここ神社だよな?」
「細けえなあ……何でもいいだろ? 生姜を植えた
「あんた巫女だよな!?」
「見りゃ分かんだろ? バイトだよ。今度のライブ費用を稼いでんの」
「いきなり開けっぴろげてきたなダメ巫女」
「ダメじゃねえよ。行き倒れに
悟は分からせてやろうかと思った。が。腕組みする巫女の圧に負けた。
「……で、釣りは?」
「見てたろ? 賽銭箱に飲まれた」
「のま……!?」
絶句だ。詐欺だ。悟はスマホを出した。
「電波ねーっしょ」
「クソァッ!」
「代わりに、やるよ」
巫女が紙切れを突き出した。
「……ライブチケット?」
「『本格中華キエフの水』の
言って、巫女は手を振りながら帰っていった。
「……杏奈って、誰だよ」
悟は誰に言うでもなく呟いた。
ゴミ箱もないので仕方なく、空き瓶ふたつをぶら下げ農道とも
「おや。珍しい」
道端で休む農夫に声をかけられた。
「あ、どもっす。あの、駅は――」
「懐かしい瓶だねえ」
「え?」
「おいちゃんが子供の頃の瓶だあ。美味しかったなあ」
農夫の笑みに、悟は思わず振り向いた。
道の先に、小山はなかった。
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