ダイバーシティ
ともかく、わー、とか、きゃー、とか歓声をあげ、多数の幼子ども(平均年齢四歳くらい)が初対面ながら意気投合して駆け回っている。鬼ごっこ、だろうか。
小さな足が人工芝の上で回転していた。
ぴたり、と姪の
「……ダルぅ……」
南は膝の上で頬杖をつき、倦怠を音にした。
ワクチン打ったでしょ? 暇でしょ? 運動不足でしょ?
姉夫婦――というか主として姉に叩きつけられた三連コンボは破壊力十分だった。お目付け役として近所の公園――はないから広場に連れ出し、監督役をせざるをえなくなった。走り回る若さはないので見ているだけだが、なるほど子供のパワーは無限大で、付き合えば疲労困憊は必然である。
しばらくボケっと見ていると、明日香が頬を薔薇色に上気させ戻ってきた。齢はたしか五歳。だったはずだ。一味の中では年長さん。
「ただいまー!」
言って、明日香が、ぺちん、と南の膝を叩いた。
「おかえりー」
南は明日香の両脇に腕を差し隣に座らせた。さっき買ったカルピスウォーターの封を切り、手渡す。自腹だった。請求しても無駄なのは明らかだ。
「何してたの?」
尋ねると、小さな手でペットボトルを傾けていた明日香が笑顔になった。
「ミュージカル!!」
開演。
南は口角の筋肉に耐えろと司令を飛ばした。
「ミュージカル好き?」
「うん!」
真剣な顔でペットボトルのキャップを締め、明日香は言った。
「ミュージカル女優さんになるの!」
「……へえ。何の役をやりたいの?」
とりあえず乗っかっとけ、と南は思った。
「王子様!」
ヅカかよ。
南は一度、広場を囲う街路樹を見上げた。黄色く色づいていた。時代は変わりつつある。女児が王子様になってもいい。
「王子様になって何するの?」
「あのねー」
明日香は純真無垢な笑顔で言った。
「お姫様をやっつけるの!!」
ダイバーシティ。なのか?
南は口元を隠した。
「……なんでお姫様やっつけちゃうの? かわいそうじゃない?」
目を合わせられなかった。
明日香は
「ライオンさんが、がおー! って!」
姫を踏みつける王子の脇で、ライオンが誇らしげに吠えた。
「ラッコさんもいるよ!」
どこに?
南はクレパスとスケッチブックを買って帰ろうと思った。
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