誰?
なのに、これは――。
「物憂げだね、旦那候補くん」
妻候補の
だからだろう。
白い服の真紀は両手を垂らして立っていた。部屋が薄暗く、またネットが日よけになって明かりが足らず、表情は分からない。
木塚は極力振り返らないように意識を払いながら答えた。
「最近、体が重くてさ」
「そうなの?」
耳馴染みのない声だった。
「うん。太ったかなって思って」
「それで?」
「鏡の前に立つと、ちょっと腹が出てて、まずいなって」
「ふうん」
「
「そしたら?」
真紀が一歩、近づいてきた。
木塚は固く目を瞑り、見開き、工事足場の骨組みに注意を向ける。
「体重が七十キロで体脂肪率三十パーセント」
「三割が脂肪だ」
真紀がクスクス笑った。
「食生活を見直そうと思って、とりあえず一日に食べる白米の重さを測ったんだよ」
木塚は自嘲気味に笑った。
「体重計で」
「体重計で」
真紀がクスクス笑った。
「俺、一回で六百グラムも食べてて。約九百キロカロリー」
「そんなに」
「――でも」
木塚は言った。
「俺、朝の軽食と、夕飯だけだから、多すぎないんだ。計算したら」
「……それで?」
「脂質にも気をつけてるし……これ、もしかしたら……って」
「何?」
「禁酒を始めてさ」
「毎日飲んでたのに」
「うん。したらさ」
「――したら?」
真紀がクスクス笑った。
「一日に五百グラム体重が落ちて、一日に〇.五パーセント体脂肪が減るんだ」
いわゆる第三のビールで一缶二百キロカロリー弱。ウィスキーが百ミリで二百キロカロリー強。いったい、どれだけ飲んでいたのだろう。
木塚は額に浮かんだ粘っこい汗を拭った。
そもそも、俺に妻候補なんていたか?
イマジナリー妻候補か。アルコールの離脱症状が見せる幻覚か。
それとも――。
「もう四日目なのに、まだ減るんだ」
ガラスには、真紀の首から上が映らない。
しかし、木塚は、どうしても振り向けなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます