フラグクラッシュ
病室の窓の外、冬めいた曇り空に、一筋の白く細い煙が昇っていく。
渉は花瓶から花を抜き取ると白陶のボウルに横たえ、古びた水を捨てた。センサーの前で手を横に払い、流れる新鮮な水を花瓶に注ぎ、また花を生ける。
――そろそろ新しいの買ってこないとな。
胸中に呟く。
――もういらないかな?
渉は微笑みながら蛍光灯を消し、振り向いた。
ベッドを囲う薄いカーテンの向こうから、楽しげに歌う少女の声が聞こえてきた。
「ハァ~~、踊りおーどーるなぁ~あ~ら~、ちょいと東京おぉ~んぅどぉ~」
やけに
「花ーの都の真ン中でぇ」
歌い継ぎ、渉はサイドテーブルに花を飾った。
「――勝ったね! お兄ちゃん!」
紗季が、
「飽きないの?」
渉が尋ねると、紗季は首を横に振って、動画のシークバーに指を滑らせた。画面がベンチに居並ぶスワローズの選手たちを映す。終身名誉キャップが大フライングでマウンドに駆け出していく。紗季のツボにはまったシーンだ。
――分かんないもんだうお。
渉は窓の外を見やった。
他力はやめだと決めた矢先、自力を決意した翌日に、他力も絡んで願いが叶った。
勝ちに不思議の勝ちあり。
今は亡き老獪な監督の言葉だ。
――でもまさか、優勝につながるなんて。
ベイスターズとハマスタに感謝だ。
約束通り、妹と喜びあえるのだから――
「――――カ」
掠れた声がした。
渉は、恐々と振り向く。
「ユル――サデ――オク、ベキ……カ……!」
魂の抜け殻となった母の、血走った三白眼が、曇天を睨んでいた。
ロッテが力尽き、オリックスが二十五年ぶりに優勝したのだ。
「ライトスタンドが潰れるまで飛び跳ねてやる……!!」
あらゆる感情を
やめとけ――と、いさめる勇気が渉にはなかった。
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