ガチめな冒険者ギルド
人と亜人種が行き交う大通り――通称、白石の商戦線――を真紅のデイドレスに身を包む少女が、執事を連れて早足で歩いている。
「お嬢様! メリア様! お待ち下さい! 交渉なら
言い切るより早く振り向き、メリアが金の眉を吊り上げた。
「声が大きい。声を荒らげれば足元を見られます」
「しかし――!」
「声を小さくと言いました」
メリアは両手を腰に置き、ため息をつく。
「
執事は両目を固く瞑り、一度、天を仰いでから、声を低めた。
「――それが誤解だというのです。冒険者ギルドに自ら依頼を持ち込む人間なんて数えるほどしかおりません」
「では、どうしろと? 手紙を出し、依頼文を壁に書かせ、人選を天に任せよと?」
「そうです。時間はかかりますが――」
「冗談じゃない!」
吠えるが如くに言い、メリアは執事に背を向けた。
「失敗したら新しく依頼を出す? そんなんじゃ手付金を毟りとられるだけ」
その名の通り白石造りの商店がならぶ大通り、道に張り出す
冒険者ギルドの前で、メリアは足を止めた。
向き合う竜が掘られた長細い二枚扉は、通りに面していながら仄暗い気配を纏う。
メリアが小さく喉を鳴らし、手を伸ばすと、背後からため息交じりに執事が進みでて扉を押した。
ギッ、と鋭く軋み、獣の気配が煙とともに流れ出た。
「私が先に入ります。お嬢様は後ろについてください」
答えの代わりにメリアは頷く。
硬皮のヒールが木床を叩いた。
殺到する視線。気圧されたと悟られぬよう、メリアは息を詰めて睥睨する。
薄暗い室内に大小まちまち、いくつもの丸テーブルがあり、冒険者たちが情報交換をしている。いずれも息を潜め、声を殺し、まるで呪文を唱えているかのように。
人や亜人の別もなく、いずれも躰のどこかに古い痕をもち、誰もが同じ目をしている。その場に相応しくない存在――メリアと執事を見ているようでいて、人を見ているのではない。価値を見ている。
彼らの値踏みをする目は、常人のそれとは質からして異なる。
何が近いかと言えば、
罪人か。
あるいは、
狂人か。
「お嬢様、あちらです」
執事が手を差し伸べた先に、鉄格子の敷居を挟んだ受付カウンターがあった。
手元より上の姿は、細かな網で隠されていた。
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