ラブコメ異能探偵

「あ、アンタなんか、全っ然! 好きなんかじゃないんだから!」


 サチが顔を真っ赤にしてコータローを指差し、そう叫んだ。クラスの誰もが、まただと思った。コータローの腕にしがみつく後輩のミハルも、元気がいいからと委員長に指名された留学生のリールーすらも。

 ――だが。

 その日は不幸にもエアコンが故障し、日本の夏を理解していなかったリールーが窓を開放していた。ために。


 


 バァン! と扉を開き、男が教室に侵入した。土足だ。モスグリーンのトレンチコートにボルサリーノハットを合わせ、エフェクター『探偵物語』松田優作モデルの丸サングラスで固めた、若い男。

 突如として現れた不審者に教室の誰もが唖然としていると、


「嘘はいけないな、お嬢さんフロイライン


 男は指を引っ掛けサングラスをずらした。


「被害者はお前か? 少年ボーイ


 男はコータローに歩み寄る。

 リールーがぽかんとした。


「ナゼお嬢さんはgermanで少年はenglishデス……?」


 答えのない問い。

 男はコータローの顔を上向かせる。


「ふん。母性本能をくすぐるトッポイ顔だ。身長も低そうだし――」


 男はコータローに横を向かせ、耳穴を覗いた。


「ラブコメ難聴もちか」

「ちょ、ちょっと! あんた誰!?」


 サチが叫んだ。コータローの腕に絡むミハルも首をぶんぶん縦に振る。

 男はハットとサングラスをコータローの机に置いた。黒い革手袋に白ネクタイだった。シャツは汗べちゃ、顔もサウナ後の水風呂直前状態だ。


半次郎はんじろう。半次郎、勝木かつき

「オゥ、Bondボンドスタイルの自己紹介デス……」


 リールーだけわくわくしていた。

 半次郎は全てを見透かすような眼差しでサチを刺す。


「ラブコメ探偵だ」

「ら、ラブコメ探偵!?」


 半次郎の異能が、コータロー、サチ、ミハル、リールーと教室の隅でふんぞり返るヤンキーのアキラに声を揃えさせた。

 なぜオウム返してしまったのか分からず、みな困惑している。

 しかし、半次郎は止まらない。


「今、声を揃えた奴はコータロー・ラブだ」

「はぁ!?」


 また揃う声。

 咄嗟にサチは言った。


「あ、あたしは――」


 ズバッと手を伸ばして発話を制し、半次郎は宣言する。


「慌てるな。俺が、推理してやる」

「推理……!?」

「お前が、この少年をラブだという事実を」


 すう、と息を吸い込み、半次郎は力を開放した。


「一切の綻びもなく論証する!」


 愕然とする面々を睥睨し、半次郎は重ねた。


「お前たち、全員をな!」


 異能が教室の窓と扉を閉め、密室を作った。

 

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