帰れずの橋の調査

 土曜日。数日のあいだ雲一つ浮いていなかったからか、空で輝く太陽以上にアスファルトが熱くなっているような気がした。そこに川から流れ込んでくる水気が絡み合い、汗がとめどなく流れ落ちる。

 コヨリはたまらずハンディファンのスイッチを入れたが、小さな羽はやかましく回るばかりで、生ぬるい空気をかき混ぜただけだった。


「ごめ。遅れた?」


 疲れた顔のアキホが、後ろからコヨリの肩を叩いた。


「おー……や。時間通りかな」

「……マジで行くの?」

「この前はやる気だったじゃん?」

「まあ、ね……新発見だったし」


 数日前にふたりで作った模型――もどき。

 橋の中央を更に細かく参列に分割し、交差する車道や高架を考慮に入れて、予想される位置に糸を結んでみた結果、糸同士の交差する点は予想通り螺旋を描いた。

 しかし、学校などでは一方向への通行が指定され、出口から真っ直ぐ引き返すと別の入口に出る。

 言い換えれば、道中で分かれ道ないし合流点が見過ごされている。

 コヨリとアキホは、それを確かめようというのである。

 また、もし見つけられたら、その先も――。


「じゃ、行こっか」

「……いいけどさ」


 いつぞや、学校帰りに帰れずの橋を渡ったときと同じ道。日に焼けたブロック塀の前に点々と並ぶ水の入ったペットボトル。蝉が煩い森のような庭の家。その裏のかび臭く朽ちかけた木戸の向こう側。

 行き交う車と電車の騒々しさが全ての音を掻き消す。


「      !」

 

 アキホに手を引かれ、コヨリはE7の入り口から橋に侵入はいった。二人の手元には自作の地図のコピーがあり、腰には歩幅の調節をした万歩計がある。

 二人は騒音が不思議と消え始める点を目指して歩き続けた。

 そして。


「      ?」

「       」


 二人は顔を見合わせ会話めいたものを交わした。互いに――少なくともコヨリには音が認識できない。予想では、ちょうど中間点にあり、もう少し先に下へと続く合流点と、上へと繋がる道があるはずだった。

 コヨリはベルトにロープを結んでアキホに渡し、背を向ける。

 ぐん、と引かれる感触を頼りに、ゆっくり、地図を見ながら後ろ向きに歩いた。

 二人がだした仮説は、だった。

 AからBへの道なりが、Bから入るとCにつながる。単純だ。

 しかし、予想は正しかった。

 コヨリは足を止めた。

 ぐん、と引かれる腰紐。足を踏ん張った。


「      」

 

 ちょうど目の前で道なりの正面が変わった。

 ついさっきまで歩いてきた道が突然に視認できなくなり、別の道が伸びていた。

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