帰れずの橋の立体
朝、疲れで霞む目を擦りながら登校したコヨリを待っていたのは、
「バカなの?」
というアキホのツッコミだった。反論はない。コヨリ自身も呆れている。
工作を始めたら眠れなくなってしまった自分に。
放課後の空き教室にアキホを連れ込み、コヨリは鞄から糸を結んだ割り箸の束を出した。
「……模型って言った?」
完全に引かれている。
そりゃそうだ、とコヨリは頷く。私も私に引いてるんだから。
「や、気付いたんだよね」
「……何に?」
「まあ見てよ」
コヨリは壁にアキホ兄妹がつくった橋の図面を貼り付けた。そして、上に重ねるようにして、マスキングテープで継ぎ接ぎつくった大きな紙を貼る。橋に接続している車道や線路の図だ。
「……これ何か意味あるの?」
「あった」
「え?」
アキホが驚いたように目を瞬いた。調べ尽くした気でいたのだろう。コヨリも書いている途中で思った。すでに通った道では、と。
でも、意地になって完成させたとき、奇妙なことに気付いた。
「この橋、全部の道が繋がってんだよね」
どうだと顔を向けると、アキホは訝しげに眉を寄せた。
「……全部?」
「そうだよ。全部」
言って、コヨリは糸を結んだ割り箸の束を振った。深夜のテンションで家のを使い、朝、怒られてから来た。
「入り口の数は西から東に十二」
言いつつ、コヨリは割り箸をお菓子の空き箱の片端に突き刺し、立てていく。
「北と南の間に川があって、」
菓子箱の真ん中に糸をからめた十二本、さらに端っこに十二本。
「それぞれの入り口に、高さを示すアルファベットがついてる」
コヨリは糸の結び目を指差した。箱の端――橋の出入り口に相当する割り箸すべてに、同じ高さの傷がつけてある。
だが、そんなことを口で説明しなくても、
「……何これ」
アキホの呆然とした声に、コヨリは今度こそ胸を張る。
「規則性ありそうだし――」
「全部つながってそう」
そう。一つの入り口は必ず対角線上を僅かに外し、別の入り口に繋がる。便宜上、借りた地図を参考に中央を一列十二本で表しているため、実際にはもう少し列が必要となるが――、
予感する。
「これ……」
「うん。たぶん、渦巻かな」
糸の集合は、橋の最下層、水路の中心に降りていく螺旋を幻視させた。
「たしかめたいから、もってきたんだ」
コヨリは糸と割り箸をさらに出し、歯を見せた。それを鞄に詰め込んできたがために、今日の彼女は授業中ひたすら寝るしかなかったのだ。
――もちろん、睡眠不足の影響も少くないが。
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