帰れずの橋の全景
鶏皮の唐揚げにチーズケーキにスペシャルドリンク。満腹感で頭は働かないし、場所も時間も相談に向かない。それに、
「それ、貸してあげるよ」
とアキホに言われては続行不可能。コヨリは正しく資料を拝借し、今日は解散となった。別れ際、アキホが橋を通って帰るならと番号を教えてくれたが、遠くに聳える黒い塊に入る気はせず、コヨリは腹ごなしに遠回りして帰った。
そして、夕飯いらないと言って怒られ、お風呂の順番を飛ばされ、ようやく髪を乾かし終えた頃、ふとケースが気になった。
スマホは、二十三時と表示していた。
「……寝ようよ。お肌に悪いよ」
我ながら年寄りくさいと思いつつ、ベッドに横たわり、しばらくして。
「だぁ! 存在感!」
コヨリは弾かれたように飛び起きケースを取った。A四サイズの、百均でも買えそうなクリアケースが、異様なほど重く感じる。
ぐぬぬぬぬ、とひとしきり唸り、ヨコリはケースを開いた。乾いた埃の匂いが鼻をつく。ファミレスでは気にならなかった泥に似た臭いも。とりあえず、ノートを手に取るが、
「……まあ、こっちだよね……」
お風呂に入る前にやるべきだったと後悔しつつ、コヨリは模造紙を出した。四つ折りでA四――つまり、Aゼロが二枚。破れないように注意して開き、余っていたドクロマークのマスキングテープで壁のポスターの上に貼ってみる。
「……うわあ」
一枚目の模造紙は階層ごとの平面図で、二枚目は北側から見た立面図。設計図はテロ防止で公開されていないとアキホは言っていたが、これがそうじゃんと思った。もちろん、小学生の仕事だから正しい書き方じゃないだろうけど。
「ほへー……」
感心と呆れ半々の息をつき、コヨリはベッドの上であぐらを組む。もうこのままレポートにしちゃえばいいんじゃ。さすがにアキホが許さないか。
「なら、これで模型を作っちゃうとか」
それじゃ図画工作か。コヨリは苦笑しながら横になり、立て肘に頭を乗せた。見れば見るほど凄い。歩道だけでも巨大な蟻の巣。または迷宮――。
「あ」
コヨリは呟く。
「そっか。これ、歩道だけなんだ」
下に川が、中心部に車道、上に高速、間に電車の高架があるはず。不自然な空白にそれらが収まる。
胸の奥で、ポツ、と興味が湧いた。スマホがある。水路も、道路も、電車の路線も描き加えられるのだ。
「……やっちゃう?」
自問にさしたる意味はない。
そんな時間かかんないっしょ、と考えていた。
大誤算だ。
それに気づくなんて。
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