キャンタマユニコーン

 陽の光すら届かぬ洞窟の奥、水もないのに茂るマングローブ林の中心で、大同だいどう中学探検部の面々は逆四芒星――俗に言う正四角形――の陣を敷き、祈りの言葉を唱えた。


「リーテ・ラトバリタ・ウルス・アリアロス・バル・ネトリール!」


 人員に余裕があったのでライティングの伊藤いとうは中心で膝を抱えている。呪文を唱えようとすらしない。いじけてるのだ。五芒星でいいじゃんという主張が却下されたがために。


「――ッだよ! 何も起きねーじゃん!」


 ヤンキーぶって金髪にしたら姉ちゃんに怒られて泣いちゃった雅紀まさきが叫んだ。姉ちゃんといるときの一人称は僕で役立たずだ。入部が認められたのは姉ちゃんのガードがゆるゆるだったからである。探検部は雅紀んチで集会し姉ちゃんの無防備を期待するのが常だった。

 それはともかく、逆四芒星の正位置なら右辺の頂点がある場所にいたハカセの兄弟子まぐろが、黒縁メガネを押し上げた。


「ラピュタでは飛行石が光りだしたんだが……」


 まぐろにはハカセと呼ばれるヤベー妹がおり、ヤベーけどハカセよりはマシだから弟子とされ、また兄だったので兄弟子だった。

 逆四芒星の左辺の下の頂点で持参のうまい棒(明太子味)をかじり、駄菓子の王子様こと海斗かいとが言った。


「やっぱドラゴボだって」


 イケメンだが口は駄菓子の食べかすで常に汚れており、下心丸出しで女子に接近するので、クラスの死んでたら付き合いたいランキング不動の一位である。


「ラピュタの呪文なのに」


 まぐろが拗ね、雅紀がキレた。


「ラピュタ竜でねーじゃん!」

「でねえよ! ラピュタだぞ!?」

 

 まぐろもキレた。


「てか、ここどこよ」


 海斗たち探検部は迷っていた。洞窟の奥でふざけた結果ここにいたのである。

 雅紀が舌打ちしようとした。ヘタクソなので顔が曲がっただけだった。


「伊藤。またアレやってみろよ。戻れっかも」

「えぇ……?」


 あからさまに嫌そうに立ち上がったが、しかし、伊藤は深呼吸してライトをズボンに押し込み、ファスナーから先っぽを出した。


「ユニコーン! ユニコーン! キャンタマユニコーン! 信じろ童貞の可能性!」


 言ってライトを点灯、腰を振る。さっきはこれで転移したのだ。今は何も起きない。ため息をつき、まぐろが最後の一角に立つ影に尋ねた。


「というか、お前は誰なんだぬ」


 連れてきた覚えのない、人ではない何かの影。

 海斗が冷静に言った。


「ふぅ~ん。祟りじゃん」


 ユニコーン! キャンタマユニコーン! と伊藤が泣き叫んでいた。

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