ケモ信仰獣人主主義政党絶対秘密大会

 人がひしめく議場の最奥で、毛茂けも教授が熱弁を奮っている。


「諸君! 今! ケモ界には重大な瑕疵かしが広まりつつある! 放置してよいのか!」


 毛茂は会の発起人で、八度の離別体験で伴侶はいずれもハツカネズミという筋金入りのケモ――いや、ズーフィリアに両足を突っ込んだ男だ。


「今や、耳さえあればケモノだという! 『けものフレンズ』の罪だ! いくら生態を模倣しようが獣耳はケモではない! 違うか!?」


 過激派だけあり毛茂の口は極論しか語らない。また始末の悪いことに賛同者も少なからずおり、声高にそうだそうだと連呼している。


「さて諸君! 今一度、確認していただきたい!」


 ザッ! と毛茂がスライドを下ろした。左端を獣耳の女、右端を無垢な獣とし、間を補完するように獣度を変えたイラストが並んでいる。


「まず獣耳! これは論外だ! 獣耳は殺せ!」


 そうだそうだと声があがった。


「次に耳と手足が獣! これを獣人とする愚か者にケモを語る資格はない!!」

「そうだ! 舌を切り取れ!」

 

 賛同者が叫んだ。最前列は異様な熱気を帯びていた。

 毛茂は全身が毛に包まれた女性図を叩いた。


「これをケモという輩がいる! 獣人への迫害だ! 彼女らは半獣人であり、断じてケモたりえない!」

「そうだ! 半獣人に理解を! 不心得者を焼き殺せ!」


 過激化する賛同者。議場の最後列で一人が外に出ていった。

 そうとも知らず、毛茂は口元や骨格が獣の絵に両手をかざす。


「ここがケモの分水嶺だ! これより先をケモという!」

「そう……か?」

 

 賛同者の一部が僅かに揺らいだ。

 衣服を身に着けていないケモを指した。


「彼ら彼女らには立派な毛皮がある! 服などいるものか! 曲がった足で跳ね、突き出たマズルむのだ! 彼らがケモだ!」

「そうだ! 他は汚らしい人間だ!」


 最前列にいた一部が顔を見合わせ後ろに下がった。

 毛茂は自らの言葉に酔い痴れるように、吹き出る汗も拭わず、ただの獣のイラストの前にひざまずいた。


「ああ……見よ! これこそが真の獣だ! なんて美しく愛おしい……!」

「獣だ! 獣だけを愛せ!」


 もはや賛同者は数人になっていた。

 少数の信徒と手を取り合い、毛茂が口を開いた。


「みなで、伴侶を探しに行こうではないか!」


 狂気の滲む発言を掻き消し、議場の扉が開かれた。


「動くな。変態ども」


 兎耳を生やした女――いや、メスが一人。手にナイフを握っている。


「……えぐってやる!」


 毛茂は我先にと最奥の非常口に駆けるが、しかし。


「はい残念」


 男が立ち塞がっていた。

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