異能会貝海の會納会Χの怪

 金色の鍾乳石が連なる洞窟の最奥、壁際には回転する磁気テープのリールを詰めた機械が並び、交差する白百合の旗が下がっている。一際大きな二本の鍾乳石の間を渡すようにかけられた、


『異能会貝海かいかいかい納会Χかい


 の横断幕。長机につく人に獣に異形に――いずれも戦慄の気配をまとい、口の中で笑いながら、手酌でビールを飲み小鉢をつついている。

 異能共の集う納会の、お誕生日席。

 棘の生えた肩パッドを装備した男が玉座に腰掛け、列席を睥睨する。


「素晴らしいだろう」

「ククク……さすが会長……」

「然り」「然り」


 王の言葉に、異能が口を揃える。視線の先には、ビールを手に肉じゃがをつつく二人の女の映像があった。

 

「分かっておられる。百合は片百合こそ至高!」


 異能が言った。映像投射ならびに内語の抽出を助けていた。

 チッ、と対面の席の異能が舌を打った。


「心の声はやりすぎなんだよ。雰囲気が大事なんだ」

「なんだと!? 内心を聞きやきもきする方がいいに決まってるだろうが!」


 映像異能が声を荒らげ、舌打ちした異能が吠えた。


「好き好き大好きは赤面百合だろが!」


 今にもビールを掛け合い決闘に雪崩込みそうな空気。

 王が厳かに言った。


「よせ。第Χかい回納会だぞ」


 二人が渋々、席についた。

 誰かが言った。


「いやしかし悩ましい。この空子からこという女、目覚めさせるべきでは?」


 すぐさま別の異能が答えた。


「時期尚早だろう。なんなら永遠にこのままがいい。儚い。捗る」

「まーた曇らせ百合厨だ。百合はね、幸せでなくてはいけないんだ」


 フッ、と異能の女が鼻を鳴らした。


「同意できるのは半分。伝えたら壊れるかも。その臆病な心が愛おしい」

「わかる……」


 王が厳かに頷いた。

 暗闇で誰かが言った。


「間に入りてぇ~」


黙れ


 会に集う異能が秒の間もなく声を揃える。

 獣が言った。


「片方がケモ化するとなおいいですね。知らずの百合チュッチュです」

「業が深い……」


 王が噛みしめるように頷いた。

 オークじみた異形が言う。


「我らの力で酔い潰れさせ、同じベッドにいれるのはどうブヒ?」

「それも良き……」


 王がしみじみ頷く。

 異能が言った。


「裸に剥くか?」

「半裸で抱きついてる程度がいい……片百合が先に目覚めて焦るのが見たい……」


 王の言葉に異能共が頷く。さすが、という声も漏れるが――。


「そこで俺が間に入る」


黙れ!


 二度目だぞ、と続いた矢先。

 列席の異能が互いを見合い、暗闇に吠えた。


「何奴!」


 そこに、人影はない。

 では、あの声は――?

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