ポールシフト

『七月七日、七夕の今日、野球あらためポールボールの歴史に新たな伝説が加わった。

 同点の七回裏、ホームチームのポールボーラーズに今季から助っ人として加入したポール・ポルボルト内野手が左のポールスイングボックスに立つと、ビジターチームのポールベアーズが守備位置を大きく変更した。

 以前はサードと呼ばれていた三番ポールについていたパウロ・スミス(愛称はポール)が旧セカンドこと二番ポールの後ろに行ったのだ。

 そう。

 ポールシフトの完成である。

 ポールをスイングするのがポールなら、二番ポールに移動したのも(愛称ではあるが)ポールである。しかも。しかもだ。

 この記事を書いている記者の名も、実はジャン=ポール・ポンボルである。

 有史以来ここまで完璧なポールシフトがあっただろうか』


 そこまで書き終え、ポールは署名を入れるためシフトキーに小指を置いた。


「これもまたポールシフトだな」

 

 自分で言って、自分で吹き出してしまった。

 しかし、すごい偶然だ。ポールが書くポールボールのポール対ポールでポールシフト。せっかくだし他のポール記事も関連ニュースとしてリンクさせてやろうか。


「えっと……? 聖パウロ小学校の今年の卒業制作は『とってもポール』……? なんだこりゃ」


 ポールは無限に湧いてくる可笑しみに耐えつつ、ニュースの続きを読む。床屋のカラーポールに似せたトリコロールカラーのポールの写真が出てきた。旗がついているからフラッグ・ポールでもある。とはいえ、


「ちょいとポール性が足らんけど、まあ仲間に入れてやろう」


 俺のポールシフトに比べたら全然だけどさ。少し上から目線になって、悪ノリが過ぎているかと思いつつ、ポールはとってもポールの記事をリンクに入れた。他にもポールの記事はないかとSNSにも手を広げる。


「――お。おおお!?」


 ポール・マッカートニーがポールスミスのCM撮影のため北極に趣き、カニのような横移動をしている動画があった。タグはポール・シフト(移動)となっている。

 ポールは今にも吹き出しそうになりながら、誰に言うでもなく呟く。


「ププププ……ポールが極地ポールでシフトしてる……! こいつはいいや!」


 画面の中のポールがムスっとした顔で言った。


「俺は変わるシフトするぞ!」


 持っていたギターの玩具をぽいっと投げ捨て、画面外から新たなギターが投げ込まれる。あれは――


「レスポールって! そん――」


    がレス   を手にした瞬間、世界から   が消えた。

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