探偵探偵
深夜、館に女性の悲鳴が響いた。
おれは着るものもとりあえず部屋を出、悲鳴のあった館主の部屋に行った。ホテルになった館の、たまたま居合わせた旅行客おれ含め五人と使用人三人、執事が一人と館主の娘息子が一人ずつ、すでに駆けつけていた。
「はーい、すいませーん」
おれは旅行客をかきわけ動揺の中心に近づいた。
腹からジャマハダルを生やした館主が無呼吸でぐっすりお休み中だった。ものの見事な刺殺体。得物のマニアックさには理由があるんだろう。
――などと考えていると、館主の息子さんが、
「父さん! そんな、誰が……!?」
てな具合に声を震わせながら遺体に手を伸ばした。まあまあ見事な演技だ。ぐるっと野次馬を見回すと、他に冷静なのが一人、二人――
「触らないでください!」
もう一人。旅行客の若いねーちゃんが声を上げた。険しい顔だった。
ねーちゃんは、証拠でも隠そうとしてるらしい息子の後ろ襟をぐっと掴んで下がらせた。行動力は二重丸だ。
「現場を荒らしたらダメです。警察がくるまではこのままにしておかないと……!」
状況判断もまあよし。
執事が慌てた様子で言った。
「で、ですが! 館の電話は今――」
「使えないんですか!?」
ねーちゃんの剣幕に、執事が苦しげに頷いた。おれは背中に二つほど緊張を感じた。きっと電話線を切ったんだろう。館が山ン中なのも最悪。携帯も使えやしない。
しばらく難しい顔をしていたねーちゃんは、やおらにスマホで現場写真を撮影、振り向いた。
「みなさん、ここを動かないでください。まだ館の中に犯人が――」
オーケイ。おれは前に出た。
「いるよ。犯人。確実に」
「――え? えっと、あなたは?」
おれは困惑するねーちゃんの顔を見た。美人。適性あり。名刺を出そうと胸に手をあて、しまったと思った。
「あ。服――」
遅れて気付いたらしく、ねーちゃんが赤面、絹を裂くような悲鳴をあげた。なるほど、コメディも可能。完璧だ。
おれはヴィーナスよろしく胸を隠して言った。
「悪ぃ。でも、もう大丈夫。おれは探偵探偵だ」
「……た、探偵探偵? 何言ってるんですか? っていうか早く服を――」
「事件はすぐに解決する。あんたの手でな」
「――てな具合で帰ってきたわけでさ」
「帰ってきちゃったんですか!? 事件は!?」
助手の大声に片耳をほじり、おれはテレビをつけた。
ちょうどニュースをやっていた。
「ほれみろ、解決だ。犯人も予想通り」
おれは探偵探偵。犯人と、探偵を見つける。
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