冷やし中華はじめました。
うだるような暑さ。
折しもコロナ
もちろん、思考は酩酊状態。
「なあ相棒、どこで腹を満たす?」
音にしたら赤面するような言葉が漏れてしまうほどに。
近所の商店街には多くの飲食店が軒を連ねていたが、このご時世、どこも苦労しているようだった。
オランダ家屋を模したキャンディな外観を育ちすぎたワイヤープラントに覆われてしまった喫茶『メリーゴーラウンド』は『コロナこわい』の張り紙だし、二年前に街にきたトルコ人メフメト・
――元から店内という概念がないくせに。
「アッ、ボクさん! お昼イマ?」
メフメトさんが白い歯を見せた。
だから僕は、僕は僕さんじゃないんだってと思いつつ小さく頭を下げた。
「だったらドゥ? タコス美味しいヨ。ヨーロパカリー味だヨ」
だから、あんたは何屋をやりたいんだよ。
「それをイーチャおしめえヨ! ボクさん!」
ハハハ、と笑った。いかん。また声に出ていたらしい。
僕はマスクを引っ張った。
「暑いし、カレー味はちょっと」
「なら『コペンハー
「……なんで?」
コペンハー軒はデンマーク人の店主が地元で食べたラーメンに惚れ込み緊急来日、修行せずに開いた町中華だ。一番のウリは
メフメトさんはバーガーキングのワッパーチーズに齧り付いた。
「冷やし中華ハジメたヨ!」
「なるほど」
ものすごくなるほどし、僕は礼を言ってコペンハー軒に行った。
曇ったガラス戸を開くと、
「いらっしゃいアルー!」
ぽっちゃり年上好きの店主が見初めた還暦を迎えたばかりの
「見て! コペンハー軒、冷やし中華はじめたアル!」
照れがない。
冷やし中華が、はじまった。
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