ねこのねねことこねこのここねのねこのひなんで

 二月二十二日ねこの日の昼下がり。大きな窓の内側から太陽を望むようにして、お澄まし顔のシャム猫が日向ぼっこに勤しんでいる。そこに、毛玉のような立ち耳スコティッシュフォールドの子猫が近寄る。よろよろ、ふらふら、今にもコケそうな足取りで、頭をシャムにぶつけた。


「ねねやん、ねねやん」


 こねこのここねはねこのねねこに鼻先を擦りつけた。

 ねねこは緩く瞬きここねを一瞥、尻尾の先で後ろ頭をぺしょった。


「なんやねん! いま小洒落たモノローグ決めとったとこやん! 急に邪魔し腐ってほんま……わしえっらい別嬪べっぴんさんやっとったんに急にほんま……」

「ねねやん。ねねやん」

「やから、なんやっちゅうねん! ちゅうか、ねねやん言うんやめぇや。ほんまきっしょい。じぶん大阪ちゃうやろ。さぶいぼ立ってくんねん!」


 ここねがしゅんと俯いた。途端。


「……泣くなや! 冗談やん! ほんま東京の子ぉは――」

「ねねやん。ここね泣いてへんよ?」

「泣いてへんのかい! てか、ねねやんやめぇやて!」


 クァッ! と窓の外に牙を剥き、ねねこが伏せた。ここねと目線の高さが近づく。


「ほんで、なんやねん」

「あんなー? ここね聞きたいことあってん」

「なんや」

「……忘れた」

「忘れたんかい!」

 

 もひとつクァッ! と牙を見せ、ねねこはここねを引き寄せた。

 ここねは喉を鳴らし、


「なーんで、ここねは関西弁つこたらあかんの?」


 急に禁忌を尋ねた。

 ねねこは沈黙ののち厳かに答える。


「……サガや」

「さがぁ?」

「せや。ほら、あの、舐めると頭ふぁー! なるんくれるごっついのおるやん?」

「ふぁー?」

「せや。なんやったっけ、あの、ふぁー! なってまうやつ。ああ、あかん。またほしなってきた。あれどこや。どっか隠しとるやろ」

「ちゅーる?」

「それや! あのふぁー! なるやつ! あれくれるごっついのんが言っとってん」

「なんて?」

「『東京モンに関西弁つかわれんのきっしょい言うとかんとこっちがおかしくなってまう』言うて、泣きよるん」


 ここねはうるうるした目を瞬く。


「……なんで?」

「あいでんてぃてぃーやねんて。なんや『東京モンとは違うんやぁ』言うとかんと自我が保たれへんねんて。知らんけど」

「……ここねはねねやんがいるから平気やで?」


 ねねこはアホくさとあくびをし、ここねをぎゅっと抱きしめた。


「急になんやねん。心臓きゅーなったやんけ」

「えへへ」

「えへへじゃないでほんま……ほんまもう……」


 温かくなってきたので、二匹の猫は瞼を閉じた。

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